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♯19
森の小道にたどりつくまでに、更に2頭のゾンビ犬に襲われた。
1頭は翔ちゃんが頭をバットで叩きつぶし、もう1頭は、由羅が得意のハイキックで地面に落としたところを、流伽がすかさず眉間にニコチン入り注射針を刺して絶命させた。
「ま、ゾンビの弱点は昔から頭って決まってますからね」
足元に横たわって痙攣するゾンビ犬を冷ややかに見降ろして、流伽は言ったものである。
そいつは前に見たのと同じく、全身の皮膚が膿み爛れていて毛が一本もなく、きわめておぞましい代物だったのだけれど、日頃からサソリやタランチュラと同居している彼女にとっては、さほどの驚きでもないようだった。
学校に戻り、水飲み場で一服。
「あー、腹減ったな」
蛇口を全開にしてバシャバシャ顔を洗い、首にかけたタオルでごしごし拭くと、由羅がぼやいた。
「よかったらうちに来ない? 簡単な昼食くらいごちそうできるし、実はみんなに見てもらいたいものがあるの」
人差し指と中指の2本でフチなし眼鏡を少し上げ、裸眼で私たちを持回すと、翔ちゃんが提案した。
「何? 見せたいものって?」
「うちの父さんのコレクション。遺跡から発掘した埴輪とかそういうのだけど、これがなかなか変わってて」
「何だ? 簡単な昼食って?」
由羅の興味はあくまでそっちらしい。
「そーめんでどうかな? これだけ暑いと、あっさりしたもののほうが食が進むでしょ?」
「そーめん? いいな。それで行こう」
「デザートにスイカくらいはつけられるよ」
「おお、それ、むっちゃデリシャスじゃん!」
というわけで、一同めいめいの自転車にまたがり、翔ちゃんの家をめざすことになった。
翔ちゃんの家は、農家を買い取った一軒家で、目抜き通りから少しはずれた高台の上にあった。
「この川に沿って上流に進むと、さっき言ってたダムにつくんだよ」
庭の隅に自転車を止めながら、崖下の川面を見下ろして翔ちゃんが言った。
この辺は川の中流に当たっていて、鮎の解禁の時期だからか、釣り人の姿が多い。
宝石みたいにきらきら輝くさざ波を見ていると、平和すぎてゾンビ犬やゾンビなんてうそみたいだ。
「父さん、いる?」
縁側に立ち、翔ちゃんが母屋の奥に声をかけた。
部屋の隅の暗がりで何かが動く気配がして、やがてもじゃもじゃ頭が柱の陰から顔をのぞかせた。
「何だ。翔子か。朝っぱらから騒々しい」
「もうお昼すぎだよ」
呆れたように翔ちゃんが言う。
「あのね。友だちつれてきたの。父さんのアレ、みんなに見せてあげてほしいんだ」
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