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「それでね、シャベルの先で、カチンって音がしたんだって」  翔ちゃんが口をもぐもぐさせて、言った。  膝の上にはお弁当箱。  中にはお手製のサンドイッチが綺麗に並んでいる。 「あれ? 何だろう? ってことになって掘ってみると…何が現れたと思う?」 「んー、わかんない」  私のお弁当は、店の余りの海苔弁当だ。  賞味期限を1日過ぎてるけど、今のところ、命に別条はないようである。 「それがさ、なんと、ドルメンだったんだって」  翔ちゃんが、すごい秘密でも打ち明けるように、声をひそめた。 「ドルメンって、知ってる? 麻薬Gメンとか、冷麺とか、そういうのじゃないよ」 「そのくらいはわかるけど…」  翔ちゃんは、真面目な顔をして、時々しょうもない駄洒落を口にする。  本人曰く、偏屈な父親とふたり暮らしをしていると、嫌でもそうなるらしい。 「つまり、石でできた遺跡。ヨーロッパのストーンサークルとかさ、ああいうの。日本だと、そうだね、奈良の石舞台なんかがそれに近いかも」 「石舞台って、古墳でしょ? 蘇我のなんとかって人のお墓」  それは知っている。  歴史の教科書に写真が出ていたからだ。 「馬子かな。でも、不思議だよね。あんな大きな一枚岩、どうやって運んだのかとかさ」 「で、そのドルメンが、建築現場から出てきたわけね?」 「そうそう。だからうちの父さんが呼ばれたわけなんだけど」  翔ちゃんのお父さんは、地元国立大学の准教授。  話によると、芥川龍之介似のイケメンらしい。  いい加減、お尻が痛くなってきた。  ベンチの上でもぞもぞお尻を動かしていると、さわやかな少年の声が飛んできた。 「おーい、翔子、ちょっと代打、頼むわ」
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