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第七章「コンビネーションブレイド」
私は何が起こっているのか確かめようと運転席を下り、慌てて公園へと向かった。
そこで見た光景は現実のものとは思えないほどの驚くべきものだった。
もはや戦うことの出来ない、ボロボロの身体になって倒れる茜に代わって、二人の少女が代わる代わるにあの強靭な肉体をした化け物に怯むことなく攻撃を仕掛け肉薄していた。
普通の人間では観測できないほどの高速で舞う二人の少女。その姿は茜たちと変わらない年頃の乙女であり、熟練の戦士のような連携と無駄のない動きを繰り出し、攻撃の手を緩めることなくダメージを与えていく。
対して化け物の攻撃はあまりの速さに惑わされているのか空を切って空振りとなり、全て効果のない無意味なものとなっていた。
圧倒的な手数によって先ほどまで敵わなかった化け物が抵抗できず、防戦一方になっている。
後方で見つめるあの首謀者たる女もこれには驚きを隠せない様子で、ただ唖然とするばかりで戦闘に介入することなく、化け物が翻弄される様を声なく見つめていた。
「一体、何が起こっているの……」
思わず私は呟いた。麻里江と雨音は肩を寄せ、ただただ戦いの様子を茫然と眺め、茜は戦闘を繰り広げる場から少し離れた地点で倒れたまま意識を失っているようだった。
一方、二人の少女は活き活きとした生気に溢れ、容姿は実に可憐でありながら、戦いは本格的な動きをしていて、茜たちとはまた違った強さを秘めているようだった。
片方は日本人だろう、茜に近い体格で二本の短剣に見える武器を手にし、その双剣を器用に扱い、無駄のない動きで隙のない剣技を放っている。
もう一人は長い柄の先に刃を付けた槍を武器に戦い、時折それを背中に仕舞い、レッグホルスターに装着した拳銃を手に取って、化け物の肉体に鋭くめり込んでいくような強烈な一撃を素早く放っている。
化け物の受ける反動を見ていると、本格的にダメージを与える攻撃は彼女が担当しているのだろう。
双剣による攻撃は囮で視界をそれに引き付けた途端、後方やサイドから周り込み、槍や拳銃で身体を抉り、強烈な深手を与え、不意打ちを食らわすように怯ませている様子が分かる。よくお互いの動きが見え、日頃からコミュニケーションを取って連携強化をしているからこそできる芸当だった。
安定感のある戦術によって強い相手にも対応した二人での戦い方。
彼女たちはそのお手本のような攻防を披露し、確実に追い詰めていっていた。
「これでお仕舞よっ!!」
双剣で引き付けた隙を後方から攻める。
華麗な連携により、両手で握った槍で化け物の身体を貫くと、ついに化け物は息絶え、フクロウの姿に戻って倒れたまま動かなくなった。
最後の一撃を見事に決めた少女。金色の綺麗な髪を短く伸ばしていて、深みのある色鮮やかなラピスラズリのような青い瞳をしている。魔法使いの確かな証だろう。
「見た目だけで、しぶといけど単純な動きをした相手だったわね」
棘はあるが年相応と言える少女の声で、息を切らす様子もなく、すぐさま息の根を止めた槍をフクロウから引き抜いた。
「さぁ、今度はあたしたちが相手になりますが、覚悟はよいですか?」
相方の黒髪の少女が手に持つ剣を後方で見ていた女に向ける。二人にはすでに首謀者があの女であることが分かっていたようだ。
「使い魔に魔力を使ってしまった分、こちらが不利なようね。
いいでしょう、ここは引かせていただきますよ。
浮かれた人間で溢れたこの街では魔力を補充するのはたやすい。
また会いましょう、今度は貴方達二人に合った玩具を用意しておきましょう」
これで悪さを辞める様子はなく、妖艶な女の姿をしたゴーストが姿を消す。
霊体化も出来るのか、ファイアウォールの外に行ってしまったゴーストを追う手立てはなくなり、ようやく危機は一旦去ったようだ。
「また、厄介な奴が出てきたね」
確かな自信があるのか、取り逃したのも関わらず、黒髪の少女は余裕の表情だった。
「次に決着を付ければいいのよ。
あーやだやだ……見てるだけで虫唾が走るのよ、そんなコスプレなんてして戦ってるのを見てると。もう大人しくしてなさい、貴方達のような正義感だけの弱っちいのがいても、ゴーストの餌になるだけよ」
白い肌と金色の髪をした恐らく欧米人の少女がそう言い残すと、茜たちと会話をすることもなく、公園から去っていった。
途端に静かになる公園、ファイアウォールも解かれ、自然な姿に戻った公園で、私は慌てて負傷している三人に駆け寄った。
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