第七章「コンビネーションブレイド」

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 戦闘を終えた二人が無傷のまま俺の車を見つけ、駆け寄ってくる。俺は二人を出迎えようと車を降りた。  すぐさま俺を守代蓮と確認し、相変わらずの愛情表現で沢城奈月(さわしろなつき)が抱き着いてくる。 「先生の言う通り手を貸してあげたよ。確かに今回のゴーストはずる賢くて厄介みたいだね。でも先生、あんな弱っちいのが稗田先生の魔法使いなの?」  大胆なスキンシップを辞める様子がまるでない奈月の身体をすぐに離す。その様子を訝しげに見つめてくる彼女の相棒ともう言うべき相方のアンナマリー・モーリンも口を開いた。 「はぁ……気に食わないんだよね、あんな派手な衣装を着て戦って。  遊びじゃないんだから、見せたいんだったらコスプレ会場でしろって思うわよ」  こちらもいつもと変わらず声が大きく相変わらず口が悪い。俺に対してそう変わらず接してくるので育ちを悪さを感じさせてくる。だが、実際には欧米生まれであるので日本人とは根本的に感性が異なると考えた方がいい。    奈月のスキンシップのおかげでアンナマリーに激しく睨まれ、その反応は実に心臓に悪いものだが、その原因は日常的に俺が奈月から求愛行動を受けているために発生している。  アンナマリーは奈月を俺から本質的には引き剝がしたいのだ。教師と生徒のタブーの恋に反対的であるという以前に、俺のことを信用していない部分が大きい。  とても難儀しているが、当分この状況が改善する様子は見えない。  改めて言えば、二人は凛翔学園の三年生で、俺とこの二人の女子生徒との関わりはかなり長いものになる。  現在では二人が魔法使いであることで面倒を見ている部分が多く、そういう点では教師と生徒ということ以上の協力関係であるともいえる。 「それで、渡した物は役に立っただろう?」  俺はレッグホルスターに装着した黄金に輝く拳銃のことを指しているが、太ももは見ないように言った。  あまり視線を下げすぎるとセクハラ行為だとアンナマリーに訴えられかねない、確かに素足の下半身は色白肌で肉付きが良く色っぽさもあるだけに俺は慎重だった。  戦闘に関しての具体的な関心はアンナマリーの方が強い。元々、超能力研究機関で養成されてきたことで、暗殺術なるものまで取得しているだけあって、今回渡した凶器にも関心を持った。  今まで以上の強敵であったから手渡してみたが、なかなかの手際で使いこなしていたのは、車内からスマホで観察していた。 「あぁ……そうね。手持ちの槍だけだと物足りないところだったから。  派手でちょっと抵抗あったけど、刺激的な経験だったわ。  先生、弾は全弾使っちゃったから、うちのために次までに準備しておいてよね」  遠慮などという感性は微塵もなく、手に取った黄金銃をこちらに寄越す。  今は一丁しか手元にないだけに貴重な品だ。六インチのパイソンPPCカスタムに形状が似ているリボルバー銃で魔銃(まがん)の生産に一役買った際に貰った。魔力を込めた弾丸は自分に作らなければならず、なかなか手間だが、強敵相手を想定するため、密かに準備をしてきたのだった。 「今日は先生のお願いで頑張ったんだから、ファミレス連れて行ってくれるよね?」  こんな時間からファミレスに二人を連れていくのかと逃げたくなったが、今回はさすがに危険な頼みであったこともあり、仕方なく了承することにした。  俺が運転席に乗り込み、アンナマリーが助手席に乗ろうとする奈月の腕を掴んで一緒に後部座席に乗った。不自然な光景であるが、長い付き合いのせいもあってこれが当たり前の光景になっている、不思議な因果というものだ、生徒と教師がこんな非日常の中で親しくしているとは。 「先生、確かに危ない感じだったけど、助ける必要があったの?」 「まぁな」  奈月が後部座席から遠慮する様子などなく聞いてくる。  奈月は俺に婚約者がいることまで知ってこうまで接近しようとしてくる、私見ではあるが女という生き物の生態は実に歪と言わざるを得ない。  とはいえ、魔法使いの二人が協力関係を結んで俺について来ることは好都合で感謝すべきことだが。 「放っておいた方が面白かったのに、あの教師の慌てた顔が見れたのに」  俺の気持ちなどに興味はなく、アンナマリーは今日も残念なくらいの毒舌であった。自分だってそこまでの善人というわけではないが、さすがにアンナマリーほど心は腐っていないと思いたい。 「今回のゴーストは厄介だよ。彼女たちも利用させてもらう」  俺は簡潔に二人へそう言った。  あの新しいタイプのゴースト、まだ未知数なところもあり一筋縄ではいかないと俺は考えていた。  黒のセダンで帰り道を離れ、よく連れ回されるファミレスに到着した。  早く帰って休みたいところだが、二人は何を食べようかと話すことに夢中でなかなか家に帰してくれる様子ではなかった。
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