第3章 出逢い

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第3章 出逢い

 夕日も落ち、辺りは真っ暗になってしまった。  もうすぐアリアは来てくれるだろうか。  それ以前に、何処で歓迎会をしてくれるのだろう。  何となく空を見上げてみると、水色と白色の月が二つ――やはり此処は異世界らしい。  小さく溜め息を吐き、机に置いてあるビスケットに手を伸ばした。  サクサクとした触感と甘い味わいを楽しんでいると、軽快な足音が響き始めた。  そして、ドアが開かれる。 「ミユ様」  今日ばかりはアリアも少しだけおめかししているようだ。いつもの茶色いコルセットワンピースではなく、デザインは同じであるものの、淡い緑色だ。纏められた髪にも小花のピンが差してある。 「行くの?」 「はい、少しお待ち下さいね」  アリアが微笑むと、その右手には、よくファンタジーで見る身長の長さ程の木製のステッキが現れた。そのステッキを床に翳すと、円形の複雑な図柄――魔方陣だろうか。それが緑色に輝きながら、徐々に浮き上がっていく。  完全に魔方陣が出来上がると、アリアの手からはステッキが掻き消えた。 「ミユ様、此方へ。魔方陣に乗って下さい」  言いながら、アリアは魔方陣へと手を翳す。  考えてみれば、この世界でアリア以外の人たちと会うのは初めてだ。  一体どんな人たちなのだろう。緊張は急激に高まっていく。  思い切り生唾まで飲み込んでしまった。  魔方陣へと進む足取りは遅い。  ようやく手前まで来ると、一度足を止め、深呼吸してみる。  大丈夫、きっと大丈夫だ。  何とか自分を言い聞かせ、一歩、魔方陣に踏み込んだ。途端に当たりの光は増し、浮遊感が沸き起こる。  この感覚は体験した事がある。そう、ワープだ。  足が地に着いた感覚がすると、そっと瞼を開けてみる。  目の前に現れたのは、金の装飾が至る所に施された白色の扉―― 「その扉を開けちゃって下さい」  声に振り返ると、アリアが満面の笑みを此方に向けていた。  アリアが笑っているから、きっと恐ろしい事は起こらない。大丈夫。  もう一度自分を励まし、金色のノブに手を掛けた。そのまま押し開いていく。  その瞬間、何かの破裂音と紙吹雪が―― 「ひゃっ」  思わず小さく悲鳴を上げてしまった。  中に居たのは三人、全員が二十歳前後だろうか。皆、私と同じように魔法使いが身に着けていそうな衣装を身に纏っている。  最初に目に入ったのは、ウェーブのかかった黒髪の女性、その奥に長い髪を一つに纏めた薄茶髪の男性、その向かいに居るのはショートカットの金髪の男性だ。  三人とも、何処かで見た事があるような気がすると思ったけれど、そんな事がある筈が無い。初対面で、しかも異世界の人たちなのだ。  軽く首を振り、頭をリセットしてみる。 「お招き頂いて、ありがとうございます」  取り敢えず、ぺこりとお辞儀をしてみる。 「こっちに来て。皆、貴女を待ってたんだよ」  女性が指し示すまま、その女性の向かい側の席に移動してみる。  その途中で目にしたのは、テーブルにこれでもかと言う程に並べられた料理だった。鳥の丸焼きに、サラダ、ロブスターやステーキなどが豪勢に用意されている。極めつけは生クリームがたっぷり使われた三段ケーキだ。  これを全部食べるのだろうか。  思わず吐息が漏れる。 「これ……」  隣に居る男性の声に振り向いてみると、その手には溢れんばかりの氷の花束が抱えられていた。 「俺たちの歓迎の気持ち」 「ありがとうございます……」  渡されるがままに受け取ってみると、両腕にひんやりとした冷気が伝わってきた。  それなのに、氷の花が解ける様子は全く無い。  この形は薔薇だろうか。とても可愛らしい彫刻だ。 「貴女の名前は?」 「えっと……花岡実結、です」  すると、何故か三人が揃って首を傾げる。 「ハナオカ……ミユ……?」 「ファーストネームはどっちだ?」  アリアと同じような反応に、此方までが戸惑ってしまいそうになる。 「実結です」  言い直すと、三人に笑顔が戻っていった。 「ミユだね。あたしはフレア。よろしくね」  黒髪の女性――フレアに握手を求められ、軽く挨拶を交わした。 「オレはアレクだ。んで、ミユの隣のが――」 「俺に挨拶させてくれたって良いじゃん!」 「あっ、済まねぇ、いつもの癖だ」  金髪の男性が、薄茶髪の男性――アレクを嗜めると、しかめっ面は一気に笑顔に変わった。 「俺はクラウ。よろしくね」  金髪の男性――クラウは一瞬此方に右手を差し出しかけたのだけれど、直ぐに引っ込めてしまった。  どうしたのだろう。  首を傾げると、今度はアリアに遮られてしまった。 「私の事は構わず、皆様は談笑をお楽しみ下さい。ミユ様、ファイトです」  何がファイトなのだろう。意味が良く分からず、更に首を傾げる。 「立ちっぱなしも疲れるしよー、取り敢えず座って飯食おーぜ! ミユの好物があれば良いんだけどな」  アレクが意地悪そうに笑うと、それぞれが席に着いた。料理を取り分けつつ、皆が私を笑顔で見詰めてくる。 「えっと……あの……」  どう反応して良いのかも分からないし、何を話して良いのかも分からない。  困ってしまい、目の前にいるフレアの顔を見詰め返してみる。
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