第3章 出逢い

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 それにしても珍しい瞳の色だ。ロードライトガーネットのような真っ赤な瞳はキラキラと輝いている。それに、額に貼られた赤色で雫形の石も―― 「取り敢えず、花束を横の席にでも置いて? ご飯食べよう?」 「あっ、はい!」  見惚れている場合ではない、このままでは料理が冷めてしまう。  抱えたままの花束をクラウとは反対の席に置き、ちょんと座り直した。 「これ、どうぞ」 「ありがとうございます」  フレアの手によって、料理が次々と取り分けられる。目の前は美味しそうな料理が乗った小皿でいっぱいだ。  口に溜まる涎を飲み込み、その時を今か今かと待ち侘びる。 「よし!」  アレクが声を掛けると、三人ともナイフとフォークを手に取ったので、私も手を合わせてみる。 「いただきます」  呟くと、三人に不思議そうな顔をされてしまった。フレアに至っては小首を傾げてもいる。 「えっと……」 「ソレ、何かの呪文か?」 「えっ?」  成程、この世界には『いただきます』の文化が無いらしい。  ブンブンと首を振ってみせる。 「ご飯の前の挨拶ですよ」 「そんなのがあるんだな」  アレクは納得したように頷いた。  この人もそう。シトリントパーズのような濃い黄色の瞳をしている。額には、やはりあの雫形の石がある。  クラウの方を見てみれば、前髪で隠れていて額は確認出来ないものの、その瞳はロイヤルブルーサファイアのように深い青色だ。  三人とも、この世のものとは思えない程に美しい色の瞳―― 「どうかした?」 「い、いえ……。ごめんなさい……」  まじまじと見詰め過ぎてしまっただろうか。クラウはほんのりと頬を赤く染め、左手を頭に乗せる。 「あの、おでこの石って……アクセサリー、ですよね?」  実は、私にも心当たりがある。この世界に来て初めて顔を洗った時、額に違和感があったのだ。鏡で確認してみると、そこには音楽室で見た、あの緑色の雫形の石が貼り付いていたのだ。何度も擦ったり、爪で引き剥がしにかかるも、未だにその石は取れそうにない。  アレクは口をへの字に曲げ、小首を傾げる。 「オマエ、ホントにアリアから何も聞いてねーんだな」 「は、はい……」  そういう風に言われてしまうと、凄く申し訳無くなってくる。  俯いていると、アレクはそっと口を開く。 「この石は魔導師の証だ。魔導師ってーのは何か分かるか?」 「魔法が使えるって言う事くらい……。この世界は魔法を使えるのが普通なんですか?」 「いや、魔法を使えるのは魔導師と各国の王、それと使い魔だけだ」  だから、アリアは『貴重な魔法』という言い方をしたのだろう。  そんな大層なものに、私はなってしまったらしい。 「取り敢えず食え。オレが作った料理残したら後が怖いぞ?」 「はっ、はい……!」  慌ててナイフとフォークを手に取り、一番近くにあった照り焼きチキンを頬張ってみる。  緊張し過ぎて、味は良く分からない。 「あの、アレクさん」 「『さん』は止めろ。あと、敬語も禁止な」 「は……う、うん」  小さく頷いてみせると、フレアとクラウに小さく笑われてしまった。 「で、なんだ?」 「えっと……何だっけ……」  先程聞きたいと思った事も忘れてしまった。これにはアレクも笑い声を上げる。 「オマエ、やっぱ……いや、何でもねぇ」  何だかこれでは、私が変わった人、みたいに思われている気がする。  緊張すれば、誰でもこうなる筈だ。口をへの字に曲げ、ポテトサラダを一口頬張った。 「ミユ、美味しい?」  味が分からないとも言えないので、クラウの問いにちょこんと頷く。 「良かった。俺の好物なんだ、ポテトサラダ」  整った顔立ちで王子様のような見た目なのに、質素なものが好きなようだ。意外だな、と思いながら、もう一口ポテトサラダを頂く。 「ミユの好きな物はある?」 「うん。ケーキ」  私は大の甘党だ。食後のデザートは至福以外の何物でもない。  ただ、今日ばかりは美味しく食べられるかどうかは分からない。 「アレクとフレアの好きな食べ物は?」 「オレは肉だな」 「あたしは辛い物」  二人とも即答する。  通りでアレクの目の前には肉料理が、フレアの前には赤色のスープがある訳だ。  少しだけ、ほんの少しだけ、三人の事が分かった気がする。  今度はサーロインステーキを口の中に放り込んだ。 「フレア、こっちのも辛いぞ。食ってみろ」 「うん。……美味しい」  こちらの二人も正しく美男美女だ。とは言っても、アレクとクラウは格好良いのタイプが違う。アレクは切れ長の目で逞しい印象を受ける。  フレアは可愛いと言うよりも、正しく美人系で、スタイルも良い。  アレクとフレアが並んでいると、互いが互いを引き立て合っていて、溜め息が漏れそうだ。  私が異質なもののように思えてくる。  少し自信を無くしながら、もう一口ステーキを噛み締める。 「ミユ、どうかした?」 「ううん、何でもない」  三人にはバレてしまわないように、こっそり口から息を吐き出した。 「そーだ! ここら辺でゲームでもしねーか?」 「何するの?」 「そーだな……。他己紹介ゲームなんかどーだ?」 「良いじゃん。ミユに俺たちの事を知ってもらえるし」  三人は頷き合い、にっこりと笑う。 「ミユは見ててくれ。んじゃ最初はクラウがフレアの他己紹介だ」 「分かった」  クラウは頷き、フレアの方をじっと見る。
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