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「朝くん、生化学のレポート終わった?」 「今日提出の? 終わったに決まってるだろ」 「さっすがー! お昼に写させてー!」 「無理。図書館行くし」 「そこをなんとかー! 提出前には返すからー!」  すがってきた一応のクラスメイトを学食で振り切り、一人図書館へ向かう。  大学なんて形だけクラスはあっても授業はほとんどバラバラだからと、数少ない交流は大切にしてきた。いや、大切にしていた、と言うべきか。  大学一年の秋までは馴染む努力をしていたし、それなりに話す相手もできた。だから今も完全にぼっちのソロ活動にはなっていない。さっきの京香のように、レポート目当てだか何目当てだかで絡んでくる相手はそれなりにいる。  だが大学一年の秋以降は、といえば、積極的な友達作りはやめていた。気力が湧かなかった。理由は単純。蘇芳と会えなかったからだ。  ずっと音信不通なままの蘇芳。あのとき「生きていたら」と言ったからには、死ぬ可能性があったということだろうか。まさか病気? 高校生だったのに? 半年後の約束すら果たせないほどの重病? それにしては元気だったぞ、あいつ。よくゲーセンで太鼓叩いて遊んでたし。毎日のように俺の家に来てはなんやかんやと男子高校生らしいことをしてきたし。今なら思う。毎日は異常だ、と。  それはさておき、もし仮に万が一あいつが重病だったとして、なんで俺は教えてもらえなかったんだ。親友だっただろう。付き合ってもいただろう。死ぬまでズッ友だって言ってただろう。友達として、恋人として、どちらかは知らないが、どちらにせよ話してくれてもよかっただろう……と、会えなかった秋からもう二年も同じことをぐるぐる考え続けている。  結局あいつは、生きているのか、死んだのか。  約束に現れなかったというからには、死んだのだろう。蘇芳はきちんと約束を守るタイプで、朝霧が言い出しておきながら忘れたものだって覚えていて、一度もすっぽかしたことなどなかったから。  生死を確かめようにも、親友で恋人だったというのに朝霧は蘇芳の家すらも知らなかった。専業主婦の母親がいつも家にいるから、と蘇芳が朝霧の家に来たがったせいだ。共働き家庭の朝霧の家には、蘇芳とは逆にいつも人がいなかった。だから毎日アレコレしたい蘇芳が転がり込んできた。  共通の知人友人にも聞いてみたが、みんな朝霧と同じく蘇芳とは音信不通とのことだった。  ということは、本当に死んだのか。  実感がないまま、早くも二年が経っていた。
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