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「生きてたら、次のスーパームーンにも会おうよ。九月にさ、またお月見しようよ」 「生きてたらってなんだよ。普通に今年も月見でいいだろ」  卒業式の夜に彩りを添える青い月光が校舎の屋上に散る。この春から違う大学に進み遠距離恋愛になる予定の蘇芳の横顔を、朝霧はちらりと盗み見た。スマートな顔だ。余計な曲線が微塵もない、無駄のない顔。冷たいと噂されることもある彼が優しいことは、朝霧が誰よりも知っている。 「ってか半年後じゃなくていいだろ。もっと近々の予定立てようぜ」  同じ進路にすれば良かった。そうしたら離れずに済んだのだろうか。いやでも、進路は一生ものだ。恋愛で決めるわけにはいかない。じゃあ蘇芳との関係は一時的なのか? そんなことも思ってない。ではどちらも一生ものだと思っているのに、なぜ進路を優先した? 大学が決まって以来ずっと堂々めぐりしている思考。合格は嬉しいはずなのに、それ以上に寂しい。そう思っているときに「生きていたら」なんて冗談で半年後の約束をされたら。  寂しさをこらえる朝霧の横で、蘇芳は月を見上げて笑っていた。淡いピンクの桜すら青白く染め上げる、綺麗な月の夜だった。
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