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第12話 現状との食い違い【1】
『魔王ソエゴンを外へ連れ出した。ランジアは俺の言う通りに動いてくれ』
「はぁ~い…」
『なんだその返事は。ようやくお嬢様を救い出せるんだぞ?』
「…ハイドがお父様に通信をして、魔術騎士団をこの城に向かわせたって聞いた時は驚いたけどね」
『そんなの当たり前じゃないか。銘家のご令嬢なのだからな』
気合の入っている兄のハイドに溜息を吐いてランジアは脳内通信から切り離した状態でふと考える。
…まぁやるしかないか~、気乗りしないけど。
だから熱の入っているハイドへ配慮をした状態で対応をするのだ。
「分かったよ、ハイド。…まずはおじょーさまを起こして、それから指定の場所へ行くから」
『分かったならいい。それじゃあ頼んだぞ』
「は~い…」
―――プチィンン…。
冷たく切られた通信にランジアは寝転がっていた状態から起き上がり、思考を巡らす。…ランジアは幼く設定をされている。だがそれでも、ある考えが浮かび上がってくるのだ。
…通信が切れた、か。…でもどうしてかな?
「ハイドは大好きだけど、命令だって聞くけれど…さ、私は」
―あの”魔王”がそんなに悪いひとだなんて思えないんだけどな。でも、命令だから…。
「やるか~。まぁハイドが狩りに行っている最中におじょーさまをこの城から安全に指定場所にまで行くだけだし、なにかあれば私の能力でなんとかすればいいし…」
そう自分に納得させたランジアは自身の能力であるトランスの能力を駆使してソエゴンになりすます。
敵であるというのに自分達に用意された部屋にもランジアは不可解な気持ちになるが遮断をした。そして備え付けてある鏡で容姿や表情を確認し、完璧だと自負する。ハイドに言われて魔王ソエゴンを凝視して観察し模倣をしたので瓜二つだ。
―だが今の気持ちは、感情は浮かない気分であった。
「…魔王からおじょーさまを奪還出来るはずだけど…これで良かったのかな?」
そう自問自答しては眠っているルルの部屋へ向かうのであった。
ルルの部屋へ辿り着き、ソエゴンにトランスをしたランジアはノックをせずに彼女の部屋へ入室した。
―すると驚いたことにルルは着替えの途中であったのだ。可愛らしい紺色のパジャマはベッドへ乱雑に置かれており、シャツを着ようとしているのだろう。肩に黒いフリルのついたシャツに閉ざされていない状態から覗く…レースのあしらえた水色のショーツに、緑が入り混じったブラという魅力的な姿にランジアは驚いた。もちろんルルもだ。
「えっ、ソエゴン!??」
さすがにルルは驚いて身を隠している様子ではあったが、ソエゴンにトランスをしたランジアは違った反応を見せたのである。
「…いいなぁ~。おっぱい大きいし…」
「なぁ!??」
普段のソエゴンであれば顔を真っ赤にして慌てふためき、そそくさと部屋を逃げ去るように出るはずだ。しかも昔にもこのようなことがあったのでソエゴンは必ず入室する時はノックをして返事を待ってから入室をしている。
―しかしこのソエゴンはルルの魅力的な身体に紅潮さえもせず、逆に凝視をするように観察をしているのだ。その姿にルルは中断をしていた着替えをしつつも考え込む。
…あのソエゴンがこんな態度を取るわけはないわ。…じゃあこのソエゴンは、一体?
だからルルはいつまでも眺める偽物のソエゴンに探るような言葉を掛ける。
「そういえば…ソエゴン。ハイド君やランジアちゃんはどこにいるのかしら?」
着替え終えてから鋭い視線で見つめるルルにランジアは動揺した。
…まずい。なにか言い訳を…!
すると思いついた言葉は事実だが”ハイドは狩りに出ている”ということである。だからランジアは慌てて言い放った。
「あぁ…、ハイドは狩りに出たんだよ。そうか~おじょーさま…じゃなくて、ルル様には言わずにいたな~。ははっ!」
「ふ~ん。ルル様…ね」
するとルルは考え込むと焦っているランジアに対し、このような言葉を掛ける。
「じゃあソエゴン、ハイド君が危険に晒されても良いのね?」
「えっ…、それは…どういう?」
するとルルは身なりを整えるように艶やかな髪を櫛で梳かしては脅迫めいた言葉でランジアの不安を煽ぐのだ。
「だってこの森はとてつもなく危険だもの。私も死にかけたこともあるし…」
「そんな…」
一気に顔を青ざめるソエゴンにルルは意地悪く尋ねるのだが…。
「あら、ソエゴンも知っていて―」
「ハイドはどうなるの!??」
すると偽物のソエゴンはハイドの心配をするのだ。先ほどよりも慌てふためく偽物のソエゴンにルルはじっと見つめる。だがソエゴンにトランスをしたランジアはルルの肩を置いて問い詰めるのだ。
「ハイドは無事なの!? この森を抜けた時だってすっごく大変だったのに、ハイドは一体―」
「なるほどね。分かったわ、あなたの正体が」
そしてルルは軽く笑ってからソエゴンに抱き着いたのだ。驚く少女にルルは笑い掛ける。
「あなたはランジアちゃんね。ソエゴンにとっても似ているけれど…やっぱり違うわ」
するとランジアは負けを認めたようにトランスを解いては元の姿に戻った。術を見破られへこむ少女にルルはまた微笑んだ。
「やっぱりね。…だってソエゴンとは違うもの」
「…私がヘマをしたから、おじょーさまは分かったの?」
「違うわ。だって…」
―ソエゴンは自分よりも他者が好きだから。
「…えっ?」
ルルの謎の言葉にランジアは首を傾げた。
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