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第13話 現状との食い違い【2】
…ランジアは大丈夫だろうか。お嬢様をちゃんと救い出せたのだろうか…?
「どうしたの、ハイド君。…考えごと、していたのかな?」
「あっ…いえ、なんでもないですよ!」
「そう。でも今日は大物を狙うから初めだろうけれど頑張ろうね。…今日でルルとお別れだろうから」
「…え?」
ソエゴンの発言にハイドは歩みを止めてしまう。自分はルルに関してはなにも言ってはいないはずだ。だが魔王ソエゴンは今日、自分達がルルを奪還するのを知っていたかのような発言をしている。それだから分からない。
…こいつ、お嬢様がアーク様の元へ戻ることを止めもしなかった。…なぜ?
だからハイドは自分の巨体が隠れるほどの大木へ身を潜めたソエゴンへ話し掛けたのだ。
「…知っていらしたのですか。俺達がお嬢様をあなたと無理矢理にでも離れさせようと」
「まぁなんなくだけどね」
「でも、なぜですか。なぜ、それでも俺をここまで…?」
するとソエゴンは悲しげな表情を見せたかと思えば、ハイドに指示をしたのだ。
「それが最善だと思ったからかな?」
「最善…ですか?」
その言葉の意味が分からずにいるハイドにソエゴンは緊張をした面持ちで話し掛ける。
「…でも気は抜かないで。今回は本当に大物を狩るからさ」
「…分かりました」
…どういうつもりだ、こいつは?
ハイドは疑問を抱くがソエゴンは空を優雅に泳ぐサメのような生き物…グレィティースシャーキィーを捕捉しては魔術で弓を生成した。そして困惑をしているハイドへ言い放つ。
「あの大物を狙うよ。僕が弓で射抜くから、ハイド君はトドメを刺して欲しい」
「あ…はい」
「大丈夫。なにかあったら僕が助けるから」
「……はい」
疑念を抱きつつもハイドは小型銃を構え、ソエゴンは大きな光り輝く弓を引いては空に向けて放った。1発で命中をし、地面へと轟音を立てて落下をするグレィティースシャーキィーをハイドは駆け込んでは術を唱える。
「捕捉-ロード-発射!」
何発も打ち込む銃に獲物は呻きつつ射撃を続ければ、獲物は動かなくなってしまった。一応自身に備え付けられている生体反応機能を駆使し、確認をすると生体反応は見られなかった。だからハイドは獲物に近付こうとすると…。
「動かないで!」
「えっ?」
するとソエゴンの緊迫した低い声で動きを止めたハイドは髪色を紫に染めて動けずにいた。そして彼は死んでいるはずのグレィティースシャーキィーに向けて術を唱えるのだ。
「虚を吐くモノに真実の死を我に捧げよ…雷!」
すると言葉から雷撃が発射し獲物が暴れ出した。だがハイドには配慮をしたらしく防御魔術も同時に掛けているらしい。そんな彼は驚いてソエゴンの強力な術を魅せられた。
―しかも驚いたことに、死んでいるかと思われていた獲物は、ソエゴンの術でまた暴れ出していたのだ。…強い生体反応さえも確認出来たのにもさらに驚く。そして術が終わり、ヒレをバタつかせていたグレィティースシャーキィーは再び動かなくなってしまった。そしてソエゴンは息を吐いてはハイドに駆け寄り話し掛ける。
「大丈夫かな。驚いたでしょ…?」
「あぁ…まぁ…、そうですね…」
するとソエゴンは獲物に近寄っては大きく頷く。獲物のグレィティースシャーキィーは白目を剥いて、息もしていなかった。するとソエゴンは術で獲物を空に運んではハイドへ説明をする。
「この獲物は死んだフリが出来るんだよね~。しかもずる賢いから、自分の心臓さえも止められる」
「…そうなんですか」
「そう。だから強力な術を使わないと倒せないんだ。…でもその代わりね」
するとソエゴンは本当に悪人面の表情をしたのだ。恐怖で慄き深い紫に染めるハイドに彼は嬉々とした声で言い放った。
「…脂身が上品で絶品なんだよね」
「……っえ?」
ハイドの髪色はすぐに水色に変化をした。そんな彼を気にも留めず、ソエゴン声を明るくしてハイドへ話し掛ける。
「じゃあ行こうか。ルルは居ないかも知れないけれど、ハイド君とランジアちゃんには…、最後に食べて欲しかったからさ」
まだ分からない。どうして自分達、いや敵に優しくするのかを。だからハイドは術で獲物を空に運ぶソエゴンへ問い掛けるのだ。
「…どうして俺達にそんなに優しくするのですか。俺達は、あなたの敵なのに」
するとソエゴンはまた悪人面をしてはその顔と真逆のことを言い放った。
「こんな僕でも見てくれるから…かな。たとえ僕を殺そうとしても…ね」
彼の発言にハイドは心の水面が揺らめいては自身に問い掛けるのだ。
…アーク様は、俺達を造ったお父様は「”魔王”は大悪党だ」と仰っていた。でも…それは、違うのではないか。俺は…。
―果たしてお父様を信じていいのか?
アークの言葉が信じられずに、疑念を払うハイドの脳内に今度は妹のランジアからの通信が来た。お嬢様こと、ルルを魔術騎士団へ引き渡したのかと思うと内心では安堵とこれで果たして良かったのかを考える自分が居た。
―だがランジアからはこのような通信が来たのである。
『ハイドごめん、作戦がバレた』
「なぁっにぃ!??」
驚きで声を上げ、髪色を赤くしたハイドにソエゴンは驚いて彼の顔を覗いた。だがその前にもハイドは声を荒げて悪気も無く言い放つ妹へ説教をしようとする。
「なにがバレただ! 今回はお父様の衛兵達も来ていて―」
『仕方ないじゃん。お説教はあとで訊くから、じゃあね』
―――プッツン…。
「おいランジア、ランジア!」
作戦が失敗し髪色が水色に戻っては落胆をするハイド。その姿にソエゴンはどう言葉を掛ければ良いかが分からず、ただ苦笑をしたのであった。
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