第15話 魔王を奪う【1】

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第15話 魔王を奪う【1】

 現在、ハイドとランジアは通信にてアークに叱られていた。なぜならば”魔王ソエゴン”からルルを奪還させる為に危険な森へ向かわせた衛兵達を置いて、彼らは約束を破って呑気にティータイムを送っていたそうなのだ。そのおかげで衛兵達は危うく森の魔獣に殺されかけ喰われかけそうになっていた。  さすがのアークでさえも怒り心頭で彼らを叱責している様子で…。 『ハイドにランジア。君達には、あの憎たらしく殺したいほど恨んでいる”魔王ソエゴン”の抹殺をするように命じたはずだ』 「はい…お父様」 『それなのに結果はどうだ。ルルシエお嬢様さえ奪還も出来ず、衛兵達も危険な目に遭ったのだ』 「は…はい…」  なにも言えずに怒られるハイドに不服そうな顔をして聞いているランジア。ランジアのこのふて腐れた顔を見られなくて良かったなと安堵をするハイドではあるが説教はまだ続く。 『しかも呑気に”魔王”などという大悪党とティータイムを送るなんて…どうかしているのではないか?』 「そ…それは―」  口ごもるハイド。だがランジアは怒っている口調のアークへこのような問い掛けをするのである。 「お父様。…あのひとは本当に大悪党なのでしょうか」 『…どういうことかね?』  通信なので表情は分からぬが激しい怒りを感じるアークの声にハイドは背筋を凍らせ、ランジアへ言葉の訂正を求めようとする。だが少女は止まらなかった。 「”魔王”は確かに顔が怖いけれど敵である私達を危険な森へ置き去りにさせることはありませんでした。それに私達がコロそうとしても、”魔王”は…ソエゴンは私達に寛大でしたし、逆にもてなされたのです。…それは一体なぜなのでしょうか?」  彼女の問い掛けにアークは考え込んではこのような結論に至る。  …あの”魔王”のことだ。危険な森を潜り抜けたという理由だけで彼らを殺すには値しないと踏んだのだろう。  そこまで自分が造り出した最高傑作を見下されると思うとはらわたが煮えくり返りそうになるが、幼い設定に造り上げたランジアにはこのような伝え方をするのだ。 『…それは君達がまだ未熟で危険視をしないからだ。余裕があるのだろうな』 「そうなのでしょうか…?」 『あぁ。残念だが、君達は”魔王”に舐められているのだ』   しかしその回答にランジアは首を横に振り、自分の記録で見た現状を話し出す。 「お父様、それは違うと思います。…だって、”魔王”から奪還させるはずのルルシエお嬢様は、とても幸せそうでした」 『…なに?』 『ソエゴンと居る時、お嬢様はとってもに私は見えたのです」 『……あの”魔王”に、か?』  …信じられない。あの恐れ多く恐怖の存在である”魔王ソエゴン”が、お嬢様を…?  驚きで言葉を失うアークに少女は言葉を紡ぎ出すが、余計な一言を告げてしまった。 「はい。だからお父様の憶測ではないかと私は思います。はっきり言ってかと」 『……』  アークの言葉を遮り、なおかつ創造者の意志に反してまでランジアは現状を伝えようと試みている。  ―だが兄のハイドは、まだ幼い妹の正直で真っすぐな言葉に、口調や反応で憤りを感じているアークを想像し顔を青ざめた。アークは褒めてくれる時は褒めてくれるが、自分の意志に逆らうと怒り狂うのだ。その行動は兄妹共に分かっている。だがそれでも、妹のランジアは自身の身勝手な言葉を訂正しない。逆に肯定しようとしているのだ。 『そうか…。そうなのだな…』  ―――ゾクッ!!?  静かで研ぎ澄まされたアークの怒りを感じたハイド。すると彼は父親の怒気を抑える為、不躾(ぶしつけ)な妹へ慌てて苦言を呈した。 「ランジア、今の言葉を訂正しなさい! …お父様も、そう怒らずに。妹はまだ幼いがゆえにこのように失礼な言葉を―」 「嫌だ。私は間違えた言葉を言ったつもりは無いよ。ハイドだって本当はそう思っていて―」 「バカ! お父様の前でなんて余計な言葉を言うんだ!」  ハイドはひしひしと感じるアークの怒りに恐怖を覚える。妹もアークに激怒されて痛い目を見たことはたくさんあったのに…。どうして妹は…ランジアはそこまでして”魔王”を…ソエゴンが免罪であるというのを明白にしたいのだろうか。  …そりゃあ、俺だって”魔王”が本当の悪人に思えないけれど…でも、今はお父様の怒りを鎮めないと。  だがアークは2体へこのような言葉掛けをしたのだ。 『そうか…。ランジアも、それにハイドも。…あの憎むべき”魔王”のに犯されてしまったのだね』 「…えっ?」  その言葉に驚愕と呆然とするハイドと訳が分からないと狼狽するランジア。そんな2体にアークは彼らの意識下である魔術を唱えた。 『かの者達の記憶を消去(デリート-delete)、そして』  ―ルルシエお嬢様の奪還に専念しなさい。  ――――ガチャン…。シュゥゥイィン…。  するとハイドとランジアはその場に倒れた。そして数分経った後になにも映らない瞳で彼らは無言のまま、という指令だけで行動をする。  ―アークは非情で狡猾な人間であった。2体に”兄妹”という設定を踏まえたの”心”を宿らせ結束力を高めさせ人造人間(サイボーグ)として造り出し、ルルを奪還させる為のとして、自身を尊敬し敬う”心”を造り上げたのだ。しかし、予想したように2体は余計な感情さえも抱いてしまったらしい。  ―だから、彼らが過ごしたソエゴンとの思い出を、という果てしなく冷酷な裁きをしたのである。…自身の作戦を遂行する為だけに。
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