第18話 魔王を奪う【終】

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第18話 魔王を奪う【終】

 ルルは真っ暗闇を必死になって駆けて行く。身体は十分に動けないがそれでもソエゴンの元へ戻りたいと願い、走り抜けるのだ。  嵐のせいで雨が強まってきた。だが彼女は走り続ける。…ソエゴンの元へ帰る為に。 「はぁっはぁっ…はぁ……!」  だが今は自分がどこに居るのかさえも分からない。しかも体調が優れていないおかげですぐに息切れをしてしまう。だからルルは雨宿りがてら妙に大きな木に座り込み、荒げていた息を整えた。雨はひどく降っていて動きたくはない。…ただ、このまま雨宿りをしていたら寒さで凍え死ぬのではないかとも思ったのだ。しかしそれよりも、ソエゴンとこんな形で離れ離れになるのも嫌だった。 「よし…、このまま凍え死ぬくらいならソエゴンの城へ向かって死ぬ方が、悔いは残らないわ。…だから、早くここから―」  ―――ガシッ! 「…っえ?」  なにかに掴まれたような気がしたルルは恐々として後ろを振り向くと…木の枝が彼女の手に巻き付いていたのだ。驚くルルに木の枝は彼女を身体中へ巻き付いて宙に担ぎ上げられる。なにがなんだか分からず困惑と恐怖で硬直するルルに、大木はさらに枝を増やして彼女の首元へ巻き付く。…まるで自分を殺そうとしているかのように思えた。 「く…くるしい…、でも、まだ死にたくない。…ソエゴンの元へ、行く…から…!」  だが首筋に巻き付かれた枝に抵抗できずルルは苦しさのあまり意識が遠のきそうな感覚に陥る。  …私は、ソエゴンに、会い…たい。  ―そんな時であった。 「我の親愛なる者を救済せよ。…放て(ラッシャアテンダー-lasciarsi andare)!」  すると巻き付かれていた木の枝と大木が吹っ飛び、ルルは空に舞い上がる。…すると誰かが抱き留めてくれた。気絶をしてしまう前に礼を告げようとするルルへ、その誰かは…愛しい彼は彼女へ懺悔をする。 「ルル…。もう怖い目に遭わせないようにするから。…すぐに来られなくてごめんね」  聞き覚えのある、低くドスの効いている声質ではあるが…慌てて来たようで声を荒げて言い放った聞き馴染みの声にルルは救われた。初めてであった時もそのような声であったのを思い出す。ただ、自分を救ってくれたその人間の手は、昔と変わらぬほどゴツゴツしているが温かい手だった。  だからルルは安心してその人間の腕の中で眠れるのだ。…自分の愛しい人物であると分かっているから。  アークの元へ1枚の写真と手紙が送られてきた。表紙を拝見するとそれは崇拝してやまない女性からだったので、彼は嬉々として中身を読んでいくのだが…読み進めるたびに苛立ちを見せ、さらには一緒に送られた写真を見て青筋を立てたのだ。  ―――バンッ!!!  憤りで机を叩いたアークは造り上げた人造人間(サイボーグ)へ通信を呼び掛けるが…応答をしない。恐らく出ないのであろう。従順であった2体を変えてしまった憎き”魔王”に向け彼は宣言をした。 「”魔王”め…お嬢様がお前を欲しているなど言わせて。…絶対に許させん。いや、許させん!」  そして彼は自室を出て”魔王”の元へ向かう為の準備をするのだ。 『アーク。私はまだ家には帰りたくはないわ。だってあの人は…ソエゴンは、私を何度も助けてくれたもの。だから私は、ソエゴンが”魔王”という称号が奪われるまで、私を欲するまで帰りません。こんな身勝手な私を許して下さい。』  そのような文面が記してあると同時に4人の人物が写真に写っていた。水色の髪色の兄妹と女性はにこやかに微笑んでいるが、巨大な体格をした男性…”魔王”は怖い笑みを浮かべて撮られている。  そんな彼が”魔王”という称号が…いや、”ソエゴン”という人間になれるまでルルは彼に尽くすことを約束しているのだ。  ―”魔王”という心を奪うまで、ずっと。 ~Fin~
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