第1話 序章

1/1
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/18ページ

第1話 序章

 ヴァイスバード家の令嬢…ルルシエ・ヴァイスバードが魔王に連れ去られてから、もう数年も経ってしまった。だがそれでも、ルルを奪還しようと彼らは何度も出陣したのだが、しかし…。  ―魔王ソエゴンの城にて。アーク率いる魔術騎士団は幾度目かの魔王への戦闘を仕掛けるのだが…。 「我はソエゴン。かの者達へ裁きの(いかづち)を…示せ(ファミーヴィア―fammi vedere)」  雲が渦巻いては暗黒に染まり、激しい雷が降り注ぐ。するとルルを奪還しようとしたアーク率いる魔術騎士団は滑稽な踊り(ダンザ―danza)を見せて危険な森から逃走を図ってしまったのだ。  …この無様な様を見せるのは何度目だろうか。…もうも経っているのに。  この魔王が住まう森へ入るのも幾度もあったがルルは帰ることはない。部下と共にみっともなく逃げながらアークは苦渋を飲む思いであった。  ―そんな中で完成をさせたのが…この2体の人造人間(サイボーグ)。ルルが囚われの姫になっているのかと思えば思うほど悲しみ、早く魔王を殺してしまいたいと願い造り上げた…魔術騎士団団長ことアーク・ジェライドの最高傑作。  座り込んでいる2体にアークは不敵に微笑み、初めに1体目の人造人間(サイボーグ)の左胸にあるスイッチを押した。  ―――カチッ…。ウィィィ…ン。  黒いスーツを着込んだ変わった髪色をした…淡い水色をベースに毛先が朱色の青年が両目を開ける。そしてアークを見て認識をするように首を傾げた。 「俺は…一体?」  瞳は髪色と同じく水色に朱色が入り混じっていた。  そして今度は青年と同様、彼とは一回り小さい少女を起動させる。身軽そうな黒いドレスを身に纏った彼女も青年同様の髪色であった。 「よし。2体とも無事に起動させられたか…」  胸を撫で下ろし安堵の息を吐くアークに少女は不可思議な顔を見せる。そしてアークを見つめてから問い掛けた。 「あなた…ダレですか?」 「あぁ…言っていなかったな。私はアーク・ジェライド。君達、の生みの親だ」 「…キョウ、ダイ?」  すると少女は青年を見てきょとんとした表情を見せる。それは彼も同じだ。青年も同じように顔を傾けると、生みの親であるアークは彼らへ説明をするのだ。 「そう。君達は兄妹だ。…スーツを着ている君は”ハイド”」 「…俺は、”ハイド”?」 「そう。君の名前はハイドだ。君の為に私が名付けた格好良い名前さ」  名前を教えられたハイドは少し顔を綻ばせアークに(ひざまず)いた。 「ありがとうございます…お父様」  彼の様子を見てアークはさらに笑う。  …よし。こいつ(ハイド)は命令通り、私を親だと尊敬をしているな。じゃあ、妹の方は…。  するとアークはハイドの頭を撫でてから呆然とする少女へ微笑み掛け、彼女に名前を告げる。 「君は…”ランジア”だ。可愛いらしい名前だろ?」  すると彼女は言葉をなぞるようにアークへ問う。 「私は、”ランジア”。…かわいいの、かな?」 「あぁ。とっても可愛らしいよ。…容姿は幼少期のお嬢様に似せたものだから…もちろん可愛いさ。名前も全て含めてね」  するとランジアは頬を染めて嬉しそうな顔をして深く礼をした。 「…ありがとうございます。お父様」  …2体とも言葉の意味は履修済み。それに私を父親だと敬愛さえしてくれている様子だ。  ―これならば、あの憎き魔王からこいつらを使ってお嬢様を救い出せるかもしれない。  そんなアークの思惑など知らずに2体は問い掛けるのだ。 「お父様、俺達はなんで兄妹なのですか?」 「私達は何の為にお父様に造られたのですか?」  ハイドとランジアが疑問を提示すれば…アークは真剣な表情を見せて言い放つ。 「君達、兄妹はの為に私が造り上げたのさ。…あの忌まわしき魔王を”殺す”為に」 「…”コロス”、何の為にですか?」  不思議そうな表情を見せるハイドへアークは説明をする。 「ハイド、よく聞いてくれたね。…その魔王は、君の妹のランジアより可憐で美しくて…そうだな。ランジアが成長をしたらそうなっていた人を…自分の城に閉じ込めて監禁しているようだ」  すると今度はランジアが怯えた表情を見せた。それを見たハイドは彼女の手に触れてゆっくりと確かめるように握る。するとランジアは安心したようにハイドに身を預けた。  ―2体の様子を見てアークは内心でほくそ笑む。  …やはりこの2体を兄妹にして良かった。…私の言いなりになれるようにの”絆”と”心”だけはかなり時間を費やして魔術で造り上げたからな。  造られた兄妹の絆を見て笑いが止まらなくなりそうになるアークに気付きもせず、ハイドは言い放つ。 「お父様。俺は妹のランジアと似ているその方をお助けしたいです。…どうすればよろしいのですか?」  するとアークはいびつに笑いながらこのような答えを出した。 「だから君達が魔王を殺すのだ。でも安心しなさい。…君達にはが備わっている」 「…能力?」 「そうだランジア。…特に、君の能力はかなり使えるから後で教えよう。…ハイド、君にもある」 「俺にも…ですか?」  2体とも再度首を傾げアークは彼らに教え込むのである。  ―魔王ソエゴンを殺す為に。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!