5:黄色

2/19
4469人が本棚に入れています
本棚に追加
/391ページ
会社に入れば必ずと言っていいほど人間関係はついてくる。 まだ私は今から構築していくけれど、織田部長は若くして次から次に昇進しているため、その分敵は多そうだなと漠然と思った。 くったくのないニコニコ笑顔の市川さんは「俺は年功序列で上に立つ人より、織田部長みたいな実力で上がっていく人のほうが絶対いいと思ってる。今川部長は親の力もあったし、頭が固くて前のやり方に固執している。『これまでのやり方でやるべきだ』ってよく口にする。逆に過去にとらわれない新しい試みを成功していく織田さんは、俺の憧れの存在なんだ。厳しいし、冷たいけど」舌を出しておどけて見せる。 厳しいし冷たい……なのに部下に憧れられるほど慕われているなんて。 合わせて私も笑うと彼は「じゃ、そろそろ仕事しようかな。とにかく伊都ちゃんみたいな素敵な子が入ってくれてよかった。モチベーション上がるよ。じゃあね」終始、明るく笑顔だった市川さんは事務所の奥へ消えて行った。 人が四方八方に歩いていて、携帯で話す人や言い合いしている人、独り言など様々な声が張りつめた賑わいを目にする。 そういえば出社してからのことを聞いていなかった。 立ち尽くしていると後方から「マネキンにでもなりに来たのか?」声がして振り返る。 「……あ、織田部長、おはようございます。今日からどうかよろ」「なかなか来ないと思ったら、こんなところで油売ってたとはな。どれだけ待たせんだ」 「待たせる?」 「昨日、言っただろ。会社に来たら適当に誰かに聞いて第6会議室へ来るように」 「ええっ」 どうやら品質管理部へ招き入れる直談判を織田さんがしてくれたことが嬉しくて私は舞い上がり、その後の記憶は無かった。 「もっ、申し訳ありません」 「俺は時間を無駄にしたくない。1錠でも多く、必要としている誰かの元に届けたい。わかったなら、さっさとついてこい」 顔色変えず彼はそう言ったが、瞳の奥には情熱が光り、そのクールな中の熱さというギャップで色気を感じる。 私は改めて織田さんの下で働ける喜びを噛み締めていたが、はっとして足早に織田さんの背中を追った。 追ってばかりの背中は、ピンと伸びた姿勢。 独特のオーラを纏う彼を再び追えることが嬉しくてたまらなかった。
/391ページ

最初のコメントを投稿しよう!