1:黒色

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バーテンダーさんは「チェイサーはいかがしましょう?」と尋ねると男性は「いや、いらないよ」と断る。 BARなんて友達と二次会で数えるほどしか来たことがなく、1人で来たのは初めてだったので何の会話をしているかわからなかった。 それから20分ほどでウイスキーを飲み干し、男性は2杯目を頼んだ。グラスが出される前に私は「すいません、ちょっと化粧室へ行ってきます」強いお酒だったため、嘘みたいに体が熱い。 たまにはこうやってストレスを発散することも大事だな。 そうつくづく思った。 私がトイレから戻ると男性は笑顔を浮かべ「次はラフロイグっていうウイスキーを頼んだから飲んでみな。多少クセはあるけど、さっきとは違うおいしさがあるから」と1杯目より少し色味が濃いウイスキーが1枚板の渋い茶色をしたカウンターへ置かれてあった。 「詳しいんですね……あ、ごめんなさい。遅くなりました。私は桜井 伊都(さくらい いと)と申します。今さらすいません」 「俺は荒木良太、宜しく」 「荒木さん、何から何まで申し訳ありません。初対面なのに、こんなによくしてもらって」 「いいんだよ。女性1人で泣いてる姿を見たらほっとけるわけないしね」 「せめて私、お会計だけはさせて下さい」 「たぶん5万ぐらいだから気にしなくていいよ。俺が勝手にしたことだしさ」 ……5万。そんなの少ない貯金を切り崩して生活をしている私にとっては大打撃で死活問題になる。 「……すいません。ありがとうございます。このご恩はいつか必ず返します」 「期待してるよ」 微笑んだ荒木さんはロックグラスを一口飲んで「それにしても桜井さんはお酒強いね」片眉を上げて私の顔を覗き込んだ。 「いえ、全然強くないです。もう頭グラグラです。でも気持ちよく酔えてます」 新しく出されたウイスキーを飲むと香りも味も力強かった。例えるなら先ほどのウイスキーは女性っぽく、今回のものは男性らしいお酒だった。 缶ビール1本で酔ってしまう体質の私には完全にキャパオーバー。 心臓が感じたことないぐらいにドクドクしている。
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