1:黒色

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「すごく親切で優しい方なんですね」 その言葉を聞いて真保さんはクスクスと笑い「そうだ、お腹減ってない?」思い付いたように両手を叩く。 そう尋ねられ私は「胃もたれがひどくて」眉をハの字にして答える。 「それもそうか」 彼女は呟き立ち上がって部屋の奥へ行くと「これ飲んで。うちの会社自慢の胃薬。よく効くよ」ベットボトルの水と封を切った薬を手渡してくれた。 「……何から何まで、すいません」 「気にしないでいいよ。困った人を助けるのは人として当然でしょ」 明るく通る声、笑顔も花開くひまわりのようで、恩をきせる様子は皆無だった。 言葉に甘えて飲み終わると真保さんは「どうしてBARでひとりで泣いていたの?」顔をかしげて見られ私は辿々(たどたど)しく理由を説明する。 「なるほどね。じゃあさ、うちの会社を受けてみたら?倍率は高いから受かる保証は無いけど」 「……え?」 「ちょうど1ヶ月後採用試験があるの。製薬会社だけあって給料も悪くないよ」 それまで気にしていなかったけれど、リビング兼寝室の部屋は1人暮らしじゃもったいないぐらい広く、綺麗で築年数も少ない様子だった。私の部屋の2倍はあるリビング。 ロニー製薬といえば親会社が大手企業のロニー株式会社で、製薬会社でも1番の大手。 「でも私、頭悪いし学歴も高卒だから無理だと思います」 「最初から無理なんて考えないの。大卒限定ではないし狭き門で勉強は必要だけど、この軍師が力になるから」 得意気な顔をして自分の胸を叩く。 受かる訳ないし無駄かもしれないと思いつつ、昨日のヒーローの顔が脳裏に浮かぶ。 「私……やるだけやってみます」 声を張ったため頭痛が走ったけれど、それがどうでもよくなるぐらいに胸に火が強く灯った。
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