この男、完璧。ただし……

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身体が重い。 三十八度を超えたところから自分にかかる重力が1.5倍になった気がする。 久しぶりにインフルエンザにかかってしまった。 毎年なんだかんだで流行し、それでものらりくらりとその魔の手から逃れてきていたのに。 職場の人が次々とかかり、最後に私にお鉢が回ってきた状況だから仕方ないといえばそうなのだけど、かかってみると何かに呪われたように身体が重い。 熱で脳が働いていないのに、関節の痛みだけは鮮明に感じるという不思議な現象に陥っている。 前にかかったのは……中学生の時か。 十年ぶりの高熱。あの時もこれくらいしんどかった気がする。だけど、あの頃よりも体力が落ちているからか、回復するのが遅い。 寝込んで二日経つのに、熱が下がらなくて今日ようやく近所の病院に力を振り絞って行き、インフルエンザだと診断されたのだ。 処方された薬を飲んでベッドの上でひたすら熱が下がるのを待つしかない中で、インターフォンが鳴った。 もちろん、無視する。だって、宅配を頼んでもいなければ、心配して訪ねてくるような人間もいない。きっと宗教の勧誘か、押し売りの類か。どちらにせよ、ろくなものでもない用事だ。 それを全体力を振り絞ってベッドから出ていく気になれない。 それなのに、インターフォンのベルは鳴り止まなかった。こちらが居留守を使っているのがバレている。電気がついているからだろうが、ここまで出ないのなら諦めるのが普通。 家賃とか滞納していないはずだけど……。
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