この男、完璧。ただし……

3/11
前へ
/271ページ
次へ
ボーっとする頭で支払い忘れがあったかと考えてみるが、思い当たる節がない。いや、ひとつだけあった。 未だに一定の間隔で鳴り続ける呼び出し音に私は「うー」と唸りながら起き上がった。 ふらふらする足取りでインターフォンのところまでいく。画面をみれば、予想通りの人物が映し出されていた。 ため息が漏れる。その間も、呼び鈴が催促してくる。これも頭に響くから私は通話ボタンを押した。 「何?」 「あ、俺」 カラカラの喉から出たひしゃげた声に呑気な口調で返ってくる。電話なら詐欺師みたいな台詞に私は眉根を寄せた。 「風邪だって言ったよね?」 「だから、お見舞い。ひとりで大変でしょ?」 「移るよ」 「大丈夫、俺インフル罹ったことないから」 いや、暗に迷惑だから帰ってほしくて言っているのだけど。 それも通用しない。いや、こいつならわかっていて嫌がらせて来ている可能性もある。 「開けてよ、ひばりちゃん。寒いよ」 わざと切なげな声音を出して、まるでこちらが虐げているようなことを言う。 もう易々と帰るわけもないから、この問答している時間すら体力ゲージを削るだけ。 私は無言で通話を切って玄関に向かい、ドアを開けた。
/271ページ

最初のコメントを投稿しよう!

265人が本棚に入れています
本棚に追加