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ボーっとする頭で支払い忘れがあったかと考えてみるが、思い当たる節がない。いや、ひとつだけあった。
未だに一定の間隔で鳴り続ける呼び出し音に私は「うー」と唸りながら起き上がった。
ふらふらする足取りでインターフォンのところまでいく。画面をみれば、予想通りの人物が映し出されていた。
ため息が漏れる。その間も、呼び鈴が催促してくる。これも頭に響くから私は通話ボタンを押した。
「何?」
「あ、俺」
カラカラの喉から出たひしゃげた声に呑気な口調で返ってくる。電話なら詐欺師みたいな台詞に私は眉根を寄せた。
「風邪だって言ったよね?」
「だから、お見舞い。ひとりで大変でしょ?」
「移るよ」
「大丈夫、俺インフル罹ったことないから」
いや、暗に迷惑だから帰ってほしくて言っているのだけど。
それも通用しない。いや、こいつならわかっていて嫌がらせて来ている可能性もある。
「開けてよ、ひばりちゃん。寒いよ」
わざと切なげな声音を出して、まるでこちらが虐げているようなことを言う。
もう易々と帰るわけもないから、この問答している時間すら体力ゲージを削るだけ。
私は無言で通話を切って玄関に向かい、ドアを開けた。
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