この男、完璧。ただし……

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冷たい空気が入ってきて、火照った身体を包み込む。現実に引き戻されるような感覚で、少し頭が冴えた。 夜の空をバックに目の前の男は上機嫌でにこにこしている。 脱色された白に近いシルバーの髪にまた髪の色変えたなとぼんやりと思う。ひと月前に青色に染めたばかりだったのに。 この男はころころと髪色を変える。そして、全部が似合っているからこちらは何も言えない。 言うとすれば、頭皮へのダメージは大丈夫なのかと言うくらいだけど、それも私が心配するところでもないなと黙っている。スキンヘッドになっても似合うだろうと思う。 今回は少しパーマもかけたのか緩くウェーブしていて、異国の王子様感が出ている。元々が白磁のような肌はきめ細かくて血の気がないほど人形みたいな容貌。 くっきりした双眸と目鼻立ちも相変わらずで、人の域を超えた美しさは熱で動かない頭でも圧巻される。 彼の頭上にちょうど丸い月が背後に浮かんでいる。それがまた神秘性を上げていた。 でも、毎回見惚れているとこちらも身がもたないので、空の月へと視線を投げたら今日満月だったことに初めて気づいた。 「イチくん」 「大丈夫?」 覇気なく名前を呼ぶ私に構わず長身を屈ませてこちらを覗き込んでくる。相変わらず、距離の近さがバグっている。私は一歩引いて「うん」と端的に返した。 二月で玄関先で話すのも寒いから、私は渋々イチくんを部屋の中へ入れる。というか、最初から上がる気満々だから、ドアが開くのを待っていたのだろう。私が帰れと言ってもまた時間の無駄。 ワンルームの狭い部屋で、私はベッドの中に、イチくんはローテーブル前に座り対面する。 「これ、ひばりちゃんの好きな焼き鯖寿司」 そう言って紙袋をローテーブルに置く。 くそう。元気だったらありがたくいただくのに。 熱がある今は大好きな焼き鯖を食す元気もない。 横たわりながらも無念に打ちひしがれる。 「……ありがとう。でも、今は食べられないからイチくんが食べて」 「そう?じゃあ、いただきます」
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