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イチくんは早速紙袋から白い包装紙で巻かれた寿司を取り出した。
え、ここで食べるの?と問う前に彼が包装を解けば、笹で包まれた焼き鯖寿司が現れる。
「ここ、職場の近くの店で、握りとかもうまいんだけど、今日は特別に作ってもらったんだ」
「へぇ、そうなんだ」
「俺、あんまり鯖好きじゃなかったけど、これはいくらでもいけるかも」
と言ってわり箸で掴んでほいほいと口に運んでいく。
ああ、マジでおいしそう。そして、実際イチくんが実においしそうに食べていく。くそう。もはや嫌がらせのために買ってきたんじゃないのか。
恨めしさすら出てきた時、深いエメラルド色の瞳がこちらへ向いた。
「ご飯はちゃんと食べた?」
「軽く……」
買いに行くのも作るのも億劫で、冷凍しておいた食パンを焼いて食べた。おかゆくらい作ればいいのだろうけど、それすらもしんどくて睡眠に回した。
「病院には行った?」
「うん、薬もらったの飲んだからマシ」
「じゃあ、寝なくちゃ」
いや、あなたが来たから起きてきたんだけど。わかってるくせに、言ってくるところが憎い。容姿がいい分、性格が捻くれている。
と言いたくなるけど、口を動かすのもしんどい。
とにかく、眠い。薬の副作用なのか、それとも私の日頃の怠惰な行動から体力が持たないのか。
無理してでも病院に行ったからよかったものの、甘く見ていたら下手したら死んでいたかも。
「でも、連絡してよかった。じゃないとひばりちゃん孤独死していてもわからないよね」
イチくんが来たからよかったと思った瞬間、似たようなことを言うから驚いた。
そう、このまま誰にも気づかれずに死ぬことが頭を過ったのも確か。
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