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それを言われて「うっ」とうめき声が出た。
私はイチくんにお金を借りている。経緯は複雑で、私の金遣いが荒いとかそういう類の話ではないのだけれど、膨大な借金を毎月少しずつ返している。
友人ということで無利子だからありがたい。
「ごめん、治ったらちゃんと振り込む」
「別に俺的にはどっちでもいいんだけど」
「そういうわけにもいかない。イチくんのお母さんともちゃんと約束したし」
「あの人こそ何も考えてないと思うけど。あ、またひばりちゃんとお茶したいって言ってたよ。快復したら遊んであげてよ」
「うん」
イチくんの家は言うなれば大金持ちで、私に貸したお金なんてあってもなくても大して変化ないという家。ちなみに私が借りているのは二千五百万円ほど。
何十年かかけてやっと返せるかという金額だけど、踏み倒すなんて借りた当初から頭にない。
本人が別にいいと言っても、借りたものは返す。
育ててくれたおばあちゃんが口酸っぱく言っていた。『他人に貸しを作ることほどやっかいなことはない』と。
ベッドに横たわる私にイチくんは、ふっと形のよい唇を薄く開いて笑った。
「ひばりちゃんは我慢強いから。しんどい時は早めに言わないとだめだよ」
「うん」
うとうとと睡魔が押し寄せてくる。誰かがいてくれるというのはこれほど安心するものなのか。
当の昔に忘れていたことが、余計に弱っている時は心に沁みる。
我慢の限界がきて瞼が落ちた時にイチくんが何か言ったけれど、うまく回らない頭が拾うことができない。適当に相槌だけ打つのがやっとで、夢うつつの状態からすぐに本当の夢の中へと落ちていった。
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