この男、完璧。ただし……

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冷凍食品なら残っていたかもと立ち上がってキッチンに向かう。 キッチンは玄関入ってすぐだ。リビングに続く廊下の一部としてキッチン台が置かれている。極小部屋だから逆に無駄なスペースがない。 持ち物も少ない私にとっては特に困ることはないけど、キッチン台がもう少し広ければ料理がしやすいのになとは思う。 普段何も置いていないシンクの脇に並べられた製品が一番に目についた。 おかゆのレトルトパウチが三つ。あとはスポーツドリンクとマヌカハニーの瓶。キッチン台横の冷蔵庫も開けてみる。 ドアポケットには同じくスポーツドリンクと水が立てられてる。冷蔵室にゼリー、おかゆのお供の漬物や鮭フレークなどが収められていた。あと、昨日食べられなかった焼き鯖寿司も入っている。 「いろいろ買ってきてくれてたんだ」 手に提げていたのは焼き鯖寿司だけだったから、リュックに忍ばせていたのか、あの後買いに行ってくれたのか。どちらにせよイチくんが用意してくれたのだ。 焼き鯖も二人分買ってきていたのなら言えばいいものを私が悔しがる様を見たくて言わなかったのだろう。 性格は決していいとはいえないけれど……たまに優しいんだよね。 普段、気ままな奴の言動にこちらが振り回されることが多い。それでも、なんだかんだで憎めないし、許せてしまうのはこういう部分があるから。 私は焼き鯖寿司を手に取るとひとりでニマニマする。
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