終章

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「翼くんのお墓参りに行きませんか」 「え?」 「葬儀はすでに終わっています。あなたから翼くんへ報告したいことがあるのでは?」  付き合いますよ、と美緒は珍しく太樹に寄り添うようなことを言ってくれた。明城家の墓は美緒の自宅から歩いて行けるところにあるという。  放課後、二人は同じ電車に乗って美緒の自宅の最寄り駅へ向かった。翼の墓前に供える花を買いたいと美緒に言うと、美緒は墓地とは反対方向だという花屋に案内してくれた。  梅雨時期には貴重な快晴の空に輝く太陽が、アスファルトの歩道を歩く太樹の肌をジリジリと焦がす。自分だけちゃっかり日傘を差している美緒が「そこです」と指さした先で、小さな花屋が歩道の隅にまで鉢を並べて営業していた。  店先いっぱいに、色とりどりの花が所狭しと飾られている。その鮮やかな風景を見て、ふと思いついた。  店の前で足を止め、太樹は美緒に目を向けた。 「外で待ってて」 「どうしてですか」 「あんた、センスなさそうだから。口出しされると妙な花を選ばれかねない」 「失礼な!」  頬を膨らませて反論しつつ、美緒はおとなしく店の外で待っていてくれた。手早く注文と支払いを済ませた太樹は、供花とは別に、もう一つの小さな花束を持って店を出た。 「はい」  白い包みの供花ではなく、太樹はオレンジ色のリボンで束ねられた黄色いガーベラの細長い花束を美緒の前に差し出した。 「前から思ってたけど、そのリボン、黄色のほうが絶対似合うよ」  美緒の頭に結ばれているピンクのリボンが、存在を主張するかのように風に揺れる。  リボンで髪を束ねること自体はかわいいのに、選んだ色のせいでどうしてもガキっぽく見えてしまうのがずっと気になっていた。だが、黄色やオレンジのようなビタミンカラーに変えればどうだろうと、軒先に並んだ花を見て不意に思った。  乙女チックなピンクより、美緒には元気と勇気に満ちたビタミンカラーのほうが似合う。パステルカラーのような淡い色合いのものを選べばより落ちついた雰囲気にもなるし、こうして隣を歩いていても恥ずかしくない。趣味が悪いとまでは言わないが、もう少し年相応の格好を心がけてもいいと思う。仮にも彼女は華の女子高生なのだから。  美緒は太樹に差し出された五本のガーベラを、最初こそ驚きに満ちた目で見つめていた。しかしそれも一瞬のことで、彼女はムッとした顔をして太樹をにらんだ。 「わたしはピンクが好きなんです」 「わかってる。でも、似合わない。ガキっぽい」 「余計なお世話です」 「買ってやるから、黄色にしろよ」 「結構です。あなたなんかに気づかわれる筋合いはありません」 「じゃあ、翼が黄色にしろって言ったら?」 「それは……」  美緒はわかりやすく目を泳がせ、そろそろと花束に手を伸ばした。翼にも指摘されたことがあるのだろう。やっぱり素直だな、と太樹は微笑ましい気持ちになった。
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