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「正直に話してもらえませんか、鬼頭太樹さん」  勅使河原の右の人差し指がトンと机の天板をたたいた。 「我々は真実を知りたいのです。あなたと明城さんのご関係についても把握している。あなたは一年後、この世界を滅ぼす魔王となり、明城さんはあなたを討つための『勇者の剣』の継承者。あなたにとって、明城さんはいわば敵だ。魔王にとって、勇者の存在は邪魔でしかない」 「俺じゃない」  太樹は震える声で無実を訴えた。 「俺はやってない。俺には翼を殺す理由がない!」 「理由がない?」  机の上で両の手の指を絡ませ、勅使河原はやや身を乗り出すような格好で太樹に言った。 「本当にそうでしょうか。羽柴先生から伺いましたよ。魔王復活の前に『勇者の剣』の継承者が死亡した場合、それが殺人であったならば、勇者を殺した者が次の『勇者の剣』の継承者となるそうですね」  太樹はすぐ隣に立っていた羽柴を見上げた。そのような話を翼から聞かされたことはなかった。 「そうなんですか、先生」  羽柴は難しい顔をしたが、太樹の疑問に答えてくれた。 「文献によれば、かつては『勇者の剣』の継承をめぐっていくつもの(いさか)いが起こったという。継承者を決めるための決闘だったり、闇討ちだったり、魔王討伐を取り巻く環境は今よりもずっと殺伐としていたそうだ。それを良しとしなかった当時の(みかど)によって、現行の魔王対策チームの祖となる組織が創設され、『勇者の剣』の継承者はその存在をチームによって徹底的に隠されることになった。誰が勇者であるかを国民に悟らせなければ、その者が無闇に殺されるようなことにはならないはずだという考えに基づく措置だ」  そういうことなら、と太樹はいくつか納得することがあった。  太樹だけでなく翼にも監視がついていたのは、勇者としての翼の身を守るため、『勇者の剣』の継承権をめぐる殺し合いを避けるためだったのだ。それに、いつか翼は言っていた。自分が勇者であることは誰にも知られてはならないのだと。それも大人たちが考えた、翼を守るための策の一つだったというわけだ。
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