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「あなたは知っていたのですよねぇ、鬼頭さん」  羽柴が説明を終えるなり、勅使河原は再び追及の一手を打ってきた。 「明城さんが『勇者の剣』の継承者だったことを。むしろ、あなたしか知らなかったのでは? 羽柴先生がおっしゃるには、明城さんには自分が勇者であることを決して口外しないようにと強く言って聞かせてあったようですから」 「だからなんだって言うんですか」  太樹は我知らず語気を強めた。 「翼を殺して、俺自身が勇者になろうとしたとでも言いたいんですか」 「おや、違うとおっしゃる? あなたが魔王と勇者を兼ねれば、誰もあなたのことを倒せない状況になるではありませんか。それ以上にあなたにとって都合のいいことなどないのでは?」 「いい加減にしろよ!」  太樹は乱暴に椅子を蹴って立ち上がった。 「俺はなにもやってない! 翼を殺そうと思ったことなんて一度もない! 俺にとって、翼はたった一人の友達だったんだ。それをどうして殺そうだなんて思うんだよ!」  翼が消えれば、太樹はひとりぼっちになる。  ずっとひとりぼっちだったけれど、翼と出会って、ひとりぼっちじゃなくなった。  もう戻りたくない。孤独だった小学校時代には。翼を失うのが怖いとこんなにも強く思っているのに、どうして翼を殺そうだなんて話になる? 「友達ねぇ」  勅使河原は椅子の背にふんぞり返り、顎を青く染めている無精髭を指でなぞった。 「あなたがた、本当に友達同士だったんですか? なにか意図があって、あなたが一方的に明城さんに近づいたのでは?」  耳の奥で、なにかがプツンと大きな音を立てて切れるのが聞こえた。  これ以上は()えられなかった。抑え込んでいた怒りが爆発し、太樹は校舎を揺らすほどの大声で絶叫した。
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