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「警察の調べで、少なくとも翼くんは五時十五分までは生きていたことがわかっています。そのときにはすでにあなたは下校していた。魔力という飛び道具を使ったのなら話は別ですが、それを抜きにすれば、あなたには犯行は不可能ということになります」  まるで刑事のようにスラスラと彼女は太樹のアリバイについて語った。なぜ、という疑問ばかりが次々と浮かぶ。 「どうしてあんたがそんなことを」 「魔族対策班の方から伺ったんです。あなたが下校してすぐ、翼くんから電話で報告があったと。あなたが懲りもせず死にたがっている、自殺しようとするかもしれないと言っていたそうですよ、翼くんは。あなたのことを助けてあげてほしい、と」  太樹は言葉を失った。翼がそんなことを言っていたなんて。  死ぬ間際まで、翼はワケありな友人のことを想っていた。優しいのは翼のほうだ。俺なんかよりもずっと優しい――。  翼のことを考えていたら、昔なにげなく言われたことを不意に思い出した。  これまで何度も自殺未遂をくり返してきた太樹だったが、走る電車の前に飛び出しても、高層ビルから飛び降りても、その事件がマスコミによって報道されたことは一度もなかった。なぜだかわかるかい、と翼は太樹に問いかけた。  政府の魔王対策チームが動いたからだ、というのが翼の回答だった。彼らは常に太樹を監視し、自殺未遂後の処理を担った。魔王の力で自然に傷が癒え、命を落とすことのない太樹の生体データも取得しようとしていたという。(きた)る対魔族戦に備えるためだとか。  翼がそうした政府の動向を把握しているのは、自分が彼らの管理下にあることを知っていたからだ。そして、今太樹の目の前にいる彼女も、翼と同じように政府の事情に精通している。  彼女はただ、翼の幼馴染みというだけじゃない。  太樹より、あるいは翼よりもずっと、政府に近いところにいる。 「あんた、何者?」  太樹の問いかけに、彼女は自らの胸もとに右手を当て、身の上を明かした。 「首都学園高校一年八組、渡会(わたらい)美緒(みお)です。まだ高校生ですが、魔王対策チーム、戦闘サポート班に所属する、政府の人間でもあります」
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