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 高校生が、政府の関係者。自分を取り巻く環境が恐ろしく普通ではない太樹でも、渡会美緒と名乗ったこの少女の発言には驚かざるを得なかった。しかも彼女は戦闘サポート班の所属だという。太樹が魔王となったとき、彼女は政府の一員として、魔王率いる魔族殲滅のための戦いに身を投じるというのか。 「納得できないんです」  梅雨らしくどんよりと厚い雲の立ちこめる空の下で、美緒はできるだけ声を落として言った。 「翼くんが『勇者の剣』の継承者であることは、いわば国家機密でした。あるはずがないんです、翼くんが勇者だとバレることは。それなのに」  美緒の鋭い視線が太樹にまっすぐ突き刺さった。 「あなたなんかとつるんでいるから、こんなことになったんです。あなたが未来の魔王だということは誰でも知ってる。勘づく人は勘づくんです。もしかしたら翼くんが勇者なのかもって」  どうにもならない感情をぶつけるように、美緒は「あなたのせいです」と太樹に言った。 「あなたのせいで、翼くんは死んだんです」  おまえがやったんだろう、とあの刑事に言われたときよりも胸が痛んだ。  美緒の言うとおりかもしれない。直接的には手を下していなくても、太樹が殺したようなものなのかもしれなかった。  太樹が魔王になる人間だから。  わかっていたのに。誰とも友達になんかなれないのだとわかっていたはずなのに、翼の優しさに甘えて、同じ時間を過ごすようになってしまったから。  そのせいで。俺のせいで、翼は――。 「許せないよな」  にらむ美緒から視線をそらし、太樹はひとりごとのようにつぶやいた。 「翼を殺したヤツのことも許せないけど、俺は、俺自身のことが誰よりも許せない」  自分のことばかりに必死になって、翼の身に危険が及んでいることになどこれっぽっちも気づいてやれなかった。  かつて人々は、『勇者の剣』を非人道的な方法で奪い合っていたという。人間の本質は時代を超えても変わることはない。特に欲望は人として生きる限り必ずいだく感情だ。だとするなら、いつの時代も『勇者の剣』を欲する人間は存在し、今日もどこかで誰かがそれを手にしようと目論んでいる。そんな日常の中で、翼は懸命に生きていた。  太樹の知らないところで、翼は日々命を狙われ続けていたに違いない。本当に危ない目に遭ったことも少なくなく、美緒たち政府の人間が何度も彼を救ってきたのだろう。  翼に代わって勇者になりたいと願うどこかの誰かの魔の手から、翼は常に身を守りながら生きていた。その傍らで、太樹のかかえる孤独にも寄り添ってくれた。  太樹の握る右の拳が震える。  なにも知らなかった。翼もきっと、あるいは太樹以上につらい思いをしてきたのだ。  それなのに、俺は。  翼のために、俺はいったいどれほどのことをしてやれただろう――。
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