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「どうすればいい」
こんなときでも学校の門は開き、始業時刻が迫っている。太樹は美緒に結論を問うた。
「どうすれば、無駄な争いを避けられる?」
責任を感じていた。間接的にでも翼の死にかかわっているのなら、じっとしていてはいけないと思った。
太樹の真剣さを感じ取り、美緒は「方法は一つしかありません」と答えた。
「翼くんを殺した犯人を早急に見つけ出すことです。事件当時の状況から考えて、犯人はこの学校の関係者でしかあり得ません。犯行時刻に学校内に残っていた人間の所在確認は全員が取れていて、わたしたちの捜索の手を逃れようと動いた人はいないようです。つまり」
「事件の全容が掴めれば、おのずと『勇者の剣』の継承者にたどり着ける」
そのとおりです、と美緒はうなずいた。勇者を殺した者が次の勇者に。翼を殺した犯人のもとに『勇者の剣』があるのなら、それを太樹たちが押さえることで、争奪戦に発展することは避けられる。
言いたいことはわかるけれど、殺人事件の真相を明らかにするなど口で言うほど容易なことではない。しかし美緒はそれを成し遂げようとしている、あるいは成し遂げられると考えているようだ。彼女は警察官ではなく、魔王対策チームの人間。もっと言えば、まだ高校生だというのに、だ。
「警察のまねごとをしようってのか」
「まねごとではありません。実際に捜査をするんです」
「誰が」
「わたしたちに決まってるでしょう。警察は信用できませんから」
「どうして」
「寝ぼけたことを。それはあなたが一番よく理解しているはずでしょう」
ピンとこない顔をする太樹に、美緒は呆れたようにため息をついた。
「昨日の事情聴取でわかったはずです。警察はあなたが犯人だと決めつけている。こんなにも安直で根拠のない思考に囚われている捜査陣に、真実が掴めると思いますか」
思わない。なるほど、そのとおりだ。警察、特にあの勅使河原とかいう刑事は、太樹以外に犯人はいないと最初から決めてかかっているようだった。今でもその線を崩さず捜査を続けているのなら、美緒の言うように、警察は信用できそうにない。
だが、美緒がなぜそこまで太樹の無実を信じられるのか、その点についてはやはり疑問だった。美緒自身、太樹には完全に犯行が不可能だったとは言っていない。太樹が魔力という飛び道具の使える人間だということを美緒はよく知っている。
「案外警察が正しいかもしれないぞ」
自分の思いとはまるで正反対なことを太樹はあえて口にした。
「魔力を使って、俺が翼を殺したかも知れない」
「あり得ませんね」
美緒は太樹の虚言をためらいもなく一蹴した。
「悔しいですが、翼くんはあなたのことを信じていました。わたしの目から見ても、あなたと翼くんの間に芽生えていた友情は絶対的なものだった。物理的には可能だったかもしれませんが、心理的な面を考慮すれば、あなたに翼くんは殺せません。それに、一秒でも早く死にたいと常々願っているあなたが、あなたの命を唯一奪うことのできる翼くんを失うことを望むというのも、あなたの心理に反することです。よって、あなたの犯行という可能性は限りなくゼロに近いとわたしは考えます」
いかがでしょう、と見事に言いきられ、太樹は思わず天を仰いだ。そこまで言われたら、もはやどうやっても太樹の犯行だとは主張できそうになかった。
「信頼してたんだな、翼のこと」
そうでなければ、太樹を信じようという気持ちに彼女がなれたとは思えなかった。太樹が翼に心を許していたように、美緒もまた、翼とは心が通じ合い、翼のことをよく理解していたのだろう。
「当たり前です」
美緒は自信たっぷりに胸を張った。
「翼くんとは物心ついた時からの仲なんです。あなたとは年季の入り方が違うんですから」
なぜかライバル視されているようだが、どうこたえてやるべきか太樹にはわからなかった。張り合ったところでなにかが生まれるわけでもない。
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