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 翼の死を受け、学校側は体育館での全校集会を開いた。といっても、魔王復活まであと一年と迫ったここ最近は登校すらしない生徒も増えており、普通の全校集会なら生徒でいっぱいになるはずの体育館は後方に大きく穴があいたような空間ができていた。  校長から弔辞の意味も込めた挨拶があり、警察の捜査にはできる限り協力すること、身の安全を守ること、マスコミへの対応は慎重に、などといった注意喚起がおこなわれた。殺人事件であったこと、翼が『勇者の剣』の継承者だったことなどは伏せられたが、少なくとも殺人ということはすでにテレビなどで情報が流れており、全校生徒の知るところとなっていた。  面と向かって「おまえがやったんだろう」と太樹に言う生徒はいなかったが――そもそも太樹に近づこうとする者がほとんどいない――、誰もが太樹を犯人扱いしていることは彼らの態度から明らかだった。太樹と翼がつるんでいたことは周知の事実で、二人の間になにかトラブルがあったのだと考える者が多いのは当然だった。  じめじめとした教室の空気が、太樹に向けられる冷たい視線と絡まって不快感を増幅させた。蒸し暑いはずなのに、からだの芯は冷えているように感じて気持ち悪い。  窓の向こうでは、今にも降り出しそうな雨がどうにか上空で踏みとどまっている。いっそ土砂降りの雨でも降って、この淀んだ空気を洗い流してくれればいい。担任を務める羽柴良輔の話を聞きながら、太樹は遠く窓の外の景色を見つめていた。  昼休みになり、母の作ってくれた弁当を提げて教室を出る。向かう先は、毎日翼と二人でランチをする校舎四階の西渡り廊下。中学の頃とは学校の敷地が変わったけれど、二人が人目を避けて過ごす場所は同じだった。  一人であの場所へ向かうと、昔のことを思い出す。まだ翼と出会う前の、中学に入りたての頃。クラスメイトの視線が痛くて、逃げ場を必死に探していた時代。  最高の居場所を見つけたと思った。こんなにも人の通らない渡り廊下があるなんて。おまけに屋根付きで雨風が凌げる。なんならこの場所で授業さえ受けたかった。一人一台タブレット端末とスマートウォッチが貸与されているのだから、オンラインで授業を受けることは可能だろう。  そんなことを考えながら一人で弁当を食べていたはずが、いつの間にか、隣に同じ制服を着た男子が座るようになっていた。  けれど、今はもうそいつもいない。  太樹はまた、一人になった。
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