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「容疑者は絞り込めていないんですか」  くだらない言い合いを続けている三人の気を引くように、太樹は少しだけ声を張った。 「五時十五分から五十五分までの間にこの学校にいた誰かなんですよね、犯人は。その四十分間に、誰にもバレないように翼に近づくことのできた人間はいなかったんですか」  腹の底から負の感情があふれ出してくるのを感じる。翼を殺した人間のことを許せない気持ちがどんどん膨らみ、どうにもならない怒りになって全身を包み込んでいく。  野放しにしてはおけないと思った。なんの目的で翼を殺したにせよ、太樹にはそいつに会う必要がある。  美緒と同じだ。落ち込んでいる暇などない。  絶対に犯人を見つけ出す。見つけ出して、そいつを――。 「鬼頭」  羽柴の穏やかな声が耳に届く。 「落ちつけ。感情的になってはいけない」 「心拍数が急激に上昇しています」  西本がタブレットの上で指をすべらせながら言う。 「よくない兆候です。体温も上がってきている。あなたの意思に反して、魔力が暴走する可能性が高まっています」  深呼吸しましょう、と西本は自らが大きく息を吸い、ゆっくりと吐いた。太樹はそれに(なら)うことなく、ただただ驚きの中にいた。  スマートウォッチだろう。西本も羽柴と同じように、スマートウォッチで計測した太樹の生体データを手もとのタブレット端末で覗き見ているのだ。  彼は政府の魔王対策チームのうち、魔族対策班にいるという。太樹を研究対象とし、日々観察や情報収集をおこなうことで、急激な心拍数の増加や体温上昇は魔力発動の兆候だという結果を得ているようだ。  実際、太樹は魔力を使うと息が上がる。からだの異様なだるさを覚えるのは体温が上がっているからかもしれない。彼らはよく研究している。太樹が魔王として破壊活動を始めたときにどのように対処すべきか、そこまで計算に入れた研究に日夜励んでいるに違いない。
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