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「五人の容疑者のうち、二年四組の円藤(えんどう)正宏(まさひろ)さんが今のところ一番怪しいとわたしたちは考えています。彼は五人の容疑者のうち、唯一の魔族ですから」 「魔族?」  この学校にも太樹や太樹の両親と同じ、人間の姿をした魔族がいたのか。太樹は美緒たち三人の顔を順に見た。 「あんたたち、この国にいる魔族の全員を把握してるのか」 「おおよそは」美緒が答えた。 「あなたもそうなのでご存じかとは思いますが、魔族として生まれた人間は、通常二つある腎臓のうち一つが欠損した状態で生まれます。魔族にはそうした顕著な特徴があるので、全数把握はそれほど困難なことではありません」 「ただし」と西本が補足情報を教えてくれた。 「魔族は両親のどちらかが魔族でなければ生まれないので、先天性の異常で腎臓が一つしかなく、かつ、両親の片方でも魔族だった場合に限って、その人は魔族であると認定されます。一方で、生まれつき腎臓が一つしかなくても、お父さんもお母さんも魔族でないなら、その人は魔族にはなり得ないということです」 「じゃあ、さっき名前が出た円藤ってのは」 「美緒さんが疑っている生徒さんですね。彼はお父さんが魔族です。彼も、彼のお父さんも、生まれつき腎臓が一つしかありません。ちなみに、魔族というのは人間に限った存在ではなく、魔犬、魔鳥など、人間以外の動物にも魔力を秘めた生き物がいます。そちらに関しては動物愛護団体との兼ね合いもあって捕獲が難しかったり、実際に魔王が復活してみないと判別ができない種や個体もいたりして、調査・研究は難航中です」  魔犬や魔鳥、か。いよいよファンタジーめいてきたなと太樹は複雑な気持ちになった。魔王の魂をからだに宿した自分が一番ファンタジーめいた存在だというのに、その事実を棚上げし、まるでひとごとのように考えていることを自嘲する。  それはさておき、太樹は円藤正宏という男子生徒のことを考える。同じ二年生だが、円藤という名前に聞き覚えはなかった。太樹や翼と同じように首都学園中学校時代から一緒だった生徒ならだいたいわかるが、おそらく円藤は高校から首都学園に入ってきたのだろう。現在の生徒の約三分の一は高校からの入学組だ。そもそも、一学年四百弱の生徒の顔を全員覚えるなんて無理だし、名前などなおさらだった。  ともあれ、つまるところ円藤正宏という同学年の男子生徒は、太樹の中の魔王が復活したとき、彼の中に眠る魔族としての本能が目覚め、魔力が使えるようになるということか。そしてその魔力を駆使し、魔王が支配する新しい世界の構築に力を貸す。  彼が新しい世界の創造と繁栄を強く望んでいるとするなら、翼を殺し、『勇者の剣』を奪ってもおかしくない、か。
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