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「魔族だから、円藤は翼を殺した?」
「可能性としては十分考えられると思います。現状、他に彼が翼くんを殺したいと願うような動機も見つかりませんし」
それでも彼が一番怪しいと美緒たちが考えているということは、他の四人の容疑者についても明確な動機のありそうな者はいないということなのだろう。やはり翼が殺された理由は『勇者の剣』絡みで、誰かが翼から『勇者の剣』を奪い取る目的で動いたと考えるほかにないようだ。
「他の容疑者っていうのは、具体的に誰」
「一年五組の有野芽以さん。一年六組の飯島剛さん。二年三組の臼井麻里花さん。物理科の大久保卓哉先生です。あなたがご存じなのは大久保先生くらいでしょうか」
「いや、臼井麻里花なら知ってる。生徒会長だろ」
「ご存じでしたか」
美緒の瞳が人を小馬鹿にするような色を映している。自分が生きていくことに精いっぱいで他人の動向に気を配る余裕がないことは認めるが、生徒会長が誰かということくらいは普通に学校生活を送っていれば自然と耳に入ってくる。さすがにムッとして、太樹は美緒をにらんだ。
「俺をなんだと思ってるんだ」
「魔王」
即答された。ここまで潔く太樹を魔王扱いする人間も珍しい。さっさとくたばれ、とでも言いたげな冷たい視線を向けられ、この女もあの勅使河原とかいう刑事と一緒だなと太樹は思った。
魔王をその身に宿した人間なんて、さっさと消えてしまえばいい。彼女たちは常々そう願っている。
「大久保先生はどうして容疑者なんだ」
気持ちの切り替えに半分失敗しながら、太樹は無理やり事件の話に戻した。
太樹が大久保を知っているのは、昨年に引き続き太樹たちの学年でクラス担任を持っているからだ。今は二年九組の担任をしていて、太樹が受ける物理の授業は彼が教えてくれている。教員になって三年目、特に女子生徒からの人気が高い若手の男性教師だった。
美緒は西本のタブレットを操作しながら答えた。
「彼は事件当時、具体的には昨日の午後三時半頃から事件が発覚した午後五時五十五分までの間、北館四階の物理科準備室に一人でいました。普段の放課後は職員室で仕事をするそうなんですが、昨日から風邪をひいていて、他の先生にうつすといけないと考えたようで」
「それで物理科準備室に引きこもっていたわけか。だから事件当時のアリバイがない」
えぇ、と美緒が太樹にうなずいて返す。
「試験問題を作っていたそうですよ。職員室にいらっしゃった他の先生方も、今は来週の試験に向けた準備でお忙しいみたいです」
そういう時期だよなと太樹は納得した。テスト週間に入ると、職員室は生徒の入室が禁止される。試験問題の流出を防ぐための措置だ。
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