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円藤の言うトレーニングルームとは、南館のさらに南側にある体育館に併設された、その名のとおり各種トレーニング器具の揃う運動部専用の筋トレ室だった。ベンチプレスやフィットネスバイクなどの大型器具からダンベルのような小さなものまでまんべんなく備えられているのは、円藤の弁によれば、レスリング部の顧問を務める体育教官が学校の経費であれこれ買い漁っているかららしい。首都学園のレスリング部は国体出場選手を輩出するような強豪クラブであるため、学校側もなにも言えないのだとか。
整然と並ぶトレーニング器具に囲まれる狭い部屋で、円藤は背負っていたリュックを下ろし、物珍しそうに室内を見回しながらあとに続いた太樹と美緒を振り返った。
「こんなところでコソコソ話そうってんだから、俺の勘は当たってるってことでいいんだよな、おチビさん?」
「誰がおチビさんですか!」
「あんたのことだなんて一言も言ってないだろ。なぁ、魔王様?」
牙を剥く美緒と、飄々としている円藤。太樹はどちらの肩を持つこともせず、淡々と話を前に進めた。
「悪いけど、あんたの勘が当たってるかどうかについてはどうでもいい。俺は純粋に、翼を殺したヤツを捜してるだけだ。あんたと同じで、俺も警察に疑われてるから」
「おまえも?」
円藤は一瞬首を傾げたが、「まぁ、そうだろうな」とすぐに納得した表情に変わった。
「明城とおまえがつるんでたことを警察が知るのは時間の問題。おまえらの間になにかトラブルがあったんじゃないかって疑うのは当然か」
「それだけじゃない。昨日翼が殺される前、最後にあいつと一緒にいたのは俺らしい」
「そういうことか。警察がおまえを疑いたくなる気持ちはわかりすぎるくらいだな」
「でも、俺じゃない。俺は翼を殺してない」
曲げようのない事実を、強く主張するように口にする。円藤はつぶらな瞳をわずかに細めた。
「俺がやったって言いたいのか」
「いや、それも思ってない」
「は?」
キョトンとした顔をしたのは円藤だけではなかった。同じ表情を浮かべた美緒が横から「ちょっと」と割り込んでくる。
「どういう意味ですか、今の」
「どういうって、言葉どおりの意味だけど」
「その回答では具体性に欠けます。ちゃんと説明してください」
はぐらかしたら苛立たれた。けれど、今はまだ確信を持てているわけではない。
美緒のことはひとまず放置し、太樹は円藤に向き直った。
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