2.

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 予感は見事に当たってしまった。昔、出会ったばかりの頃の翼にも似たようなことを言われた。あのときの翼も、強い興味に瞳をキラキラと輝かせていた。今の円藤は、当時の翼と同じ目をしている。 「俺も魔族だからさ、前から知っておきたいと思ってたんだよな。俺が将来、どんな力を持つことになるのか」  ニヤつきながら話す円藤の姿に太樹は苛立ちを覚えた。彼は一年後に迫る自らの運命、この星の転換期についてずいぶん軽く考えているようだ。あるいは、魔族としての本能が目覚めたあとの自分のことを楽しみにしているのか。  くだらない。ろくでもない未来しか待っていないに決まっているのに、どうしてそんなに能天気でいられる?  小さな苛立ちが、腹の底で怒りの感情へと変わっていく。魔力を見せてほしい? 笑わせるな――。  円藤に向かって手を伸ばすように、太樹は右腕を静かに持ち上げる。よく鍛えられていて太い彼の首もとに、開いた手のひらを向けた。  実際に触れなくても、少し願うだけでその太い首を絞めることができる。こんな不穏な力でよければ、いくらでも見せてやれる。一年後に持つことになる恐ろしい力を思い知れ、バカ野郎――。  部屋の端に片づけられていた縄跳び用のロープがひとりでに宙を舞い始める。絡まることなくスルスルとほどけ、ピンと真一文字に伸びて空中で止まる。  円藤が息をのみ、「うそだろ」と小さく漏らす。なにをされるか悟ったのか、その顔はみるみるうちに恐怖の色へと染まっていく。  自分から見たいと言っておいて、なんだその反応は。太樹は苛立ちをさらに募らせ、円藤の首めがけてロープを動かそうとした。  ほんの一瞬、美緒が動き出すほうが早かった。美緒は太樹が円藤に向けて伸ばしている右腕を掴み、女子高生とはとうてい思えないほどの馬鹿力で握りつぶした。太樹は痛みに顔を歪め、うなり声を上げながら掴まれている美緒の右手を力まかせに振りほどいた。  宙に浮いていたロープが床に落ち、二つの持ち手がカランカランと音を鳴らして転がる。円藤はいろんな意味で目を丸くし、大きく吐き出した息を震わせた。
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