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「羽柴先生に居場所を尋ねたんですがね。あの人はどうも、我々警察に非協力的でいけない。おかげであちこち歩き回らされました。あなたがたのつけているその腕時計の位置情報さえ教えてくれれば話は早かったんだが」  わざとゆっくり歩いているのかと思ったが、どうやらそうではないらしい。 勅使河原はなぜか右足をかばうように歩いていた。よほど痛むのか、文句を垂れた理由もその足にあるようだった。 「それは誤解でしょう」  美緒が一歩進み出て、太樹の隣に立って言った。 「羽柴先生は警察の捜査に協力していないわけではありません。そうお感じになったのなら、それは先生があなた個人を拒絶しているということだと思います」  ほう、と勅使河原は値踏みするような目で美緒を見た。 「さすがは渡会家のお嬢さんだ。ずいぶんはっきりと物をおっしゃる」 「なにか問題がありますか。今わたしが言ったことはおおむね事実だと思うのですが」 「これは手厳しい。あなたも羽柴先生と同意見、私のことがお嫌いだということですかな」  美緒は黙った。答えるまでもない、ということだろう。  羽柴や美緒だけじゃない。太樹も同じだ。この刑事とはわかり合えない。話したくない。たとえ警察バッジを掲げられても、任意の聴取なら断固拒否する。どれだけ疑われようと、この男には本当のことを話してやる気にはなれなかった。なにを語ろうと、どうせ太樹を疑うに決まっている。 「西本から聞いたのですがね」  太樹と美緒が壁をつくったことを察してなお、勅使河原は自分のペースを崩すことなく事件の話を振ってきた。 「あなたがた、捜査の真似事を始めたそうじゃあありませんか。西本のことも利用して」 「真似事ではありません。わたしたちは本気で、翼くんを殺した犯人を捜しています」 「なるほど、本気でね。それで、どうです。進捗状況は」 「おかげさまで順調です。わたしたちが犯人にたどり着くのも時間の問題かと」 「ほう、それは頼もしい。では、我々警察からも、あなたがたの捜査に役立つであろう情報を一つ、お教えしましょう」  大きな余裕を感じさせる口調を崩さず、勅使河原は右の人差し指を顔の横で立ててみせた。いったいなにを告げられるのかと、太樹も美緒もやや身構えるような姿勢で勅使河原をにらむ。
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