3.

5/7

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/103ページ
「先ほど、司法解剖の結果報告が来ましてね。明城さんのご遺体ですが、背中の刺し傷以外に目立った外傷はなかったようです。また、学校から明城さんに貸与されているスマートウォッチの位置情報の記録から、きみが午後五時に205教室を出たあと、彼は一度も205教室を離れていない。彼の腕にスマートウォッチはありませんでしたが、着用していた制服のズボンのポケットから見つかりました。彼は腕時計を嫌い、いつもポケットに入れていたそうですから、犯人がわざと彼の腕から時計をはずす細工したという線は考えなくてよさそうです。教室内にその他の不自然な点もなく、殺害現場は205教室とみてまず間違いないでしょう。……ここまでお伝えすれば、私の言いたいことがおわかりいただけるかと思うのですがねぇ、賢いあなたがたならば」  意味もなくもったいぶる勅使河原の態度は相変わらず腹立たしい上に、彼がなぜ太樹にこんな話をしたのか、その理由にも見当がついてしまって余計にムカついた。  翼の遺体に傷がなかった。つまり、翼は犯人に襲われた際、一切抵抗しなかった。  205教室の生徒数は全部で四十人。四十個の机は等間隔に並べられ、通路は決して広くない。  たとえば誰かが、翼を訪ねて205教室に入ったとする。翼は人の気配を感じ、振り返るなり席を立つなりするだろう。そしてなんらかの話をし、翼は再び席についた。そのタイミングで、犯人は翼の背中をナイフで刺した。事の経緯はこんな具合で間違いない。  しかし、不自然だ。翼は自分の命が常に誰かに狙われていることを自覚していた。魔王の信奉者、あるいは勇者に憧れる者。どこからともなく、あるいは知り合いの中からでも現れる可能性のある敵に対し、不用意に背中を向けるとは思えない。尋ねてきた者があるのなら、その人物が自分の前から立ち去るのを見届けるまで視線をはずすことはないだろう。  思い返せば、翼は太樹に対してさえ隙を見せることはなかった。もちろん、それは太樹が魔王だからという理由もあるのだろうけれど。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加