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 残る三人の容疑者のうち、太樹と美緒が一番に会いに行ったのは一年生の飯島剛だった。今回も美緒が率先して彼に声をかけてくれたのだが、教室後方の扉の端に立った美緒の隣に太樹の姿を見つけた途端、飯島はわかりやすく血相を変えた。 「お願い。殺さないで」  仲のいい者同士で固まって過ごし、ゆったりとした時間の流れる昼休み。十五人ほどしかいない一年六組の教室に飯島の高めの声はよく響き、太樹は意図せず生徒たちの視線をひとりじめした。 「いや、殺さないって。そういうつもりで来たんじゃないから」 「嘘だ。あんた、魔王だろ。僕のことも、おととい殺されたあの先輩みたいに……」  瞳を揺らし、太樹を真っ向から拒絶する飯島の態度は、これが現実なのだと太樹に嫌と言うほど理解させた。  太樹は魔王。世間は太樹が翼を殺したと思っている。あるいは飯島の場合、今回の事件の容疑者として警察から取り調べを受けた際、あの勅使河原という刑事から余計なことを吹き込まれた可能性もある。どうせ魔王が犯人だ、あなたには形式的な質問をしているだけ。そんな風に。  太樹を廊下に残し、美緒が教室の中へと入っていく。廊下側から三列目、前から五番目の席に座る飯島の隣に立ち、同じ一年生ながら、美緒は太樹に対するような丁寧な言葉づかいで飯島に声をかけた。 「あの人の言っていることは本当です。わたしたちは翼くんを殺した犯人を捜しています」 「わたしたち? きみ、あの人の仲間?」 「まさか。今は訳あってあの人と行動をともにしていますが、本来ならば、あの人はわたしの敵です。いろんな意味で」  あきらかに太樹に聞こえるような声で美緒は言った。最後に付け加えた「いろんな意味で」に特に力がこもっていたように聞こえたのは気のせいだろうか。 「ふぅん、そうなんだ。よくわかんないけど」  飯島は顔を下げ、机の一点を見つめる瞳をぐらぐらと揺らした。
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