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「高所恐怖症の次は、先端恐怖症ですか」  北館から本館へと戻るために渡り廊下を目指しながら、美緒は腕組みをしてつぶやいた。 「円藤さんと同じように、飯島さんにも犯行は厳しそうですね」 「あぁ。翼は背中を刺されてる。刃物が苦手な飯島なら、仮に翼を殺す気があったとしても別の方法を選ぶだろうな」  これでまた一人、容疑者が減った。前に進めているようで、実際にはそれどころか真相から遠ざかっているような気さえする。  警察の捜査も行き詰まっているのだと西本がぼやいていたことを思い出し、納得した。警察もこうして参考人から話を聞いて回り、そのたびに手札を一枚ずつ減らしているのだ。勅使河原のあの態度はともかく、彼が太樹を犯人にしてしまいたい気持ちが今なら少しわかるような気がした。言うまでもないが、受け入れるつもりはない。  二人は北館から本館へと続く渡り廊下の前で立ち止まった。横殴りの雨がアスファルトをバタバタと打ちつけている。午後からは上がると今朝の天気予報で言っていたが、空は真っ暗でとてもそんな風には見えない。  二階から上の渡り廊下には窓があるが、一階部分だけは窓がなく、鉄格子が間隔をあけてはめ込まれているだけだった。格子の隙間から吹き込む雨は床を濡らし、ところどころに小さな水たまりをつくっている。  頭をかかえるように背を丸めながら、二人は渡り廊下を駆け抜けた。目的地は本館と南館をつなぐ渡り廊下の途中に入り口のある、掘っ立て小屋のような二階建ての小さな校舎、別館だ。 「ひどい雨ですね」  本館から南館へと続く廊下を走る頃には二人ともすっかり雨ざらしになっていた。別館に足を踏み入れた美緒は、ぼやきながら制服にかかった雨粒をハンカチで拭った。太樹は素手でパンパンと払い、雫の一部が美緒に飛んで「ちょっと」と文句を言われた。  二人がこの場所を訪れたのは次の容疑者と話をするためだ。別館の一階には生徒会室が入っており、目的の人物は昼休みをそこで過ごすことが多いと聞いた。 「失礼します」  美緒は丁寧に挨拶を述べてから扉を開ける。首都学園高校生徒会を束ねる同級生、生徒会長の臼井麻里花は、同じ生徒会役員の女子生徒二人とともに弁当を食べているところだった。
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