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「あんたの言いたいことはわかる」  太樹は静かに足を踏み出し、生徒会室の前を離れた。 「でも、その件に関しては、俺は事件とは無関係だと思う」 「なぜです? たとえば脚立が倒れたちょうどその瞬間、彼女は翼くんを殺していたかもしれないじゃないですか」 「翼が殺されたのは205教室だ。隣の204教室で音が聞こえたのなら、205教室にいたって同じように聞こえたはずだろ」 「気がつかなかったんですよ、翼くんを殺すことに夢中になっていて。あるいは、殺害直後の彼女は興奮状態にあり、外界の音を無意識的にシャットアウトしていたのかもしれません」 「あぁ、そうかもな」  適当にあしらうような返しになってしまい、案の定美緒は頬を膨らませて太樹の前に立ちはだかった。 「なんですか、その気のない返事は! わたしの見解が間違っていると言うのなら、どうぞはっきりとおっしゃってください」 「怒るなよ」 「怒りますよ! やる気あるんですか!」 「あんたこそ、本気で翼を殺したヤツを見つけ出したいなら、もう少し観察眼を磨いたほうがいいぞ」  目を点にする美緒の隣をすり抜け、太樹は別館の建物の出入り口へと向かう。美緒は駆け足で追いかけてきて、扉をふさぐように回り込み、やっぱり太樹の前で仁王立ちした。 「どういう意味ですか、今の」 「どうって、言葉どおりの意味だよ」 「またそれですか。ちゃんと説明してください」  素直だな、と太樹はつい感心してしまった。だからこそ、彼女は強いのかとも同時に思う。できないこと、わからないことを素直にそうと認めること、自分の弱さを受け入れることは、強い人間でなければできないことだ。  生徒会室のほうへと半分振り返りながら、太樹は美緒の気持ちにこたえた。 「見たか、彼女のスマホケース」 「スマホケース?」 「そう。臼井さんの持っていたクリーム色のケース、女の子のイラストが描かれてただろ」 「そう……でしたか」 「あぁ。どこかで見たことあるイラストだなと思って、ずっと考えてたんだ」 「思い出したんですか」 「うん。ベースの色は違うけど、同じデザインのケースを使ってる人がいた」 「誰です?」  美緒が仁王立ちでふさいだ扉を、見知らぬ男子生徒二人が迷惑そうにくぐり抜けて別館に入ってきた。太樹たちをにらむように脇を通り過ぎ、彼らは生徒会室へと消えた。  廊下が再びしんと静まりかえるのを待ってから、太樹は回答を口にした。
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