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「はい」
『夜分に申し訳ありません。警視庁刑事部の勅使河原と申します。鬼頭太樹さんでお間違いないでしょうか?』
溌剌としているが、年齢を感じさせる男の声だった。太樹が「そうです」と答えると、勅使河原と名乗った刑事はやや声のトーンを落とした。
『突然のご連絡で驚かれたでしょう。申し訳ない。どうか落ちついて、私の話を聞いてください』
嫌な予感しかしない前振りだった。太樹は黙って相手が再び口を開くのを待つ。
『明城翼さんをご存じですね?』
受話器を握る手が震えた。「はい」と太樹は喉の奥から絞り出すような声で答えた。
『大変残念ですが、つい先ほど、明城さんが亡くなられました。あなたがたのかよわれている首都学園高校でご遺体が発見されましてね』
世界から音が消え、時間が止まったような気がした。
なにも聞こえない。なにも目に映らない。
勅使河原の紡いだ言葉だけが、頭の中をぐるぐると無秩序に回っている。
亡くなった。
翼が、死んだ――?
『鬼頭さん』
勅使河原の落ちついた声がようやく太樹の耳に届いた。
『大丈夫ですか』
この人はなにを言っているのだろうと思った。大丈夫なはずがない。気づかいのつもりなら逆効果だ。そんなことより、もっと伝えてほしいことがたくさんある。
呼吸をすることを思い出し、太樹は意識的に息を吸い、吐き出した。
「あの」
声が震えているのが自分でもわかった。勅使河原は『はい』と太樹が次の言葉を紡ぐのを待ってくれた。
「遺体って……翼は、なんで。だって俺、さっきまであいつと一緒で」
『落ちつきましょう、鬼頭さん。詳しいことは現在捜査中です』
捜査中って。まさか。
まさか、翼は。
「翼に会わせてください」
前のめりになりながら、太樹は電話の向こうの勅使河原に言った。
「学校だって言いましたよね? 俺、今から行きます」
じっとしていられなかった。自分の目で確かめるまで信じられない。
翼が、親友が死んだなんて。
ついさっきまで一緒にテスト勉強をしていたはずなのに。
『ほう、お越しいただけますか。それは助かります』
勅使河原の声がやや明るめのトーンに転じた。
『ちょうど今、我々からそちらへ伺おうとしていたところだったのですよ。すぐにでもあなたにお会いしたいと思っていたものですから』
「どういう意味ですか」
警察が太樹に会いたがっている。翼の死と無関係ではないだろう。
一拍おいて、勅使河原は太樹に告げた。
太樹の想像を裏切らない、最悪の事実だった。
『明城さんのご遺体は、背中に鋭利な刃物が刺さった状態で発見されました。事故や自殺を疑うまでもない。明城さんは、何者かに殺害されたようです』
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