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「なにか手がかりになりそうなものは見つかったの?」  美緒が少し()いたような口調で西本をつつく。「いいえ」と西本の回答は冴えない。 「不審者の目撃情報についても今のところ空振りのようです。事件発生から遺体発見まで時間があいてしまったこともありますし、犯行現場はもともと人通りの少ない場所だそうですから、なかなかヒットしないのもやむなしって感じでしょう。犯人か、あるいは被害者か、どちらがその場所を選んだかはわかりかねますが、二人はあえて人目につかないところで落ち合ったと考えて間違いなさそうですね」 「人に聞かれたくない話をしていたってことか。やっぱり、『勇者の剣』のことを?」  かもしれませんね、と西本は言うが、太樹だけが納得できていない表情を浮かべていた。  本当にそうなのだろうか。有野と犯人が二人きりで会ったのは、本当に『勇者の剣』が理由?  美緒と西本の会話はむしろ違和感の塊のように思えて仕方がない。二人にとって『勇者の剣』は日常的に触れるものだっただろうが、果たして有野もそうだったと言えるだろうか。  翼や美緒、羽柴から聞いた話によれば、一般的に『勇者の剣』とはその存在こそ知られていても、持ち主が誰か、すなわち、魔王と相対する勇者が誰なのかという点については国家機密だという。ならば、一高校生に過ぎない有野はどうやって『勇者の剣』のありかについて知ったのか。あるいは、どうやって翼が勇者だということを知ったのか。  それに、翼が殺されたときの状況。翼は抵抗した様子のないまま背中を刺されて殺された。警察の調べによれば、有野と翼は面識がなかったという。仮に有野が翼に近づいたとすれば、常日頃から命を狙われてきた翼が警戒しなかったとは思えない。  有野は翼殺しの犯人ではない。有野は『勇者の剣』の行方について知らなかった。そう考えた上で有野が翼殺しにかかわっていたとしたらどうだろうか。それならば、彼女が殺されることになった理由はわからないでもない。  有野は翼殺しの犯人を知っていて、その人物に接触を図った。家庭環境に問題があり、たびたび家出をしていたという彼女に必要だったのは、自宅を離れ、一人で暮らすための資金、あるいは場所。それを犯人から脅し取ろうとしたと考えるのは間違っているだろうか。  あり得ない、取るに足らない妄想と言うほど脆い仮説でもないと思う。翼殺しについては別にして、有野殺しに関しては、『勇者の剣』とはまるで無関係の、金銭目的の恐喝、およびそれに付随した殺人だった。そうは考えられないか。  無言のまま、太樹は渡り廊下を離れ、本館の校舎内に入る。背後からパタパタと二人分の足音が追いかけてきた。
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