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「何時のものを確認されますか」
「五時以降で」
太樹の指示に従い、武部は二日前の午後五時時点での情報を出してくれた。学年ごとに色分けされた丸印で表示され、二分ごとに更新されるという位置情報のデータは、丸印をクリックすると生徒カードの画像がポップアップに表示されるようで、午後五時の時点での有野の位置を示す丸印はまだ多目的教室にあった。その後、守衛室を訪れたのが午後五時六分。午後五時十二分には守衛室の前を離れ、多目的教室へ戻ろうと廊下を引き返し始めたようだ。
しかしそれ以降、有野の位置を示す赤い丸はしばらく同じ場所にとどまっていた。五時十四分、十六分、十八分と、五時十二分から数えておよそ六分間、廊下の一点から赤い丸は動かない。それから二分後の五時二十分にようやく位置が変わり、再び多目的教室に戻ったのち、午後五時五十二分にスマートウォッチを下駄箱へ返却したようだ。武部はこの日に限らず、毎日のように最終下校の見回りで多目的教室に引きこもっている有野に声をかけ、下校を促しているという。よほど家に帰りたくなかったのだろう。
「やっぱり」
データを見て、太樹はいよいよ確信した。
有野が立ち止まっていた場所、時間。なぜ彼女が殺されたのか。
一連の事件は、一人の人間による連続殺人だったのだ。
「なにが『やっぱり』なんです?」
太樹の思考を、美緒の声が遮った。
「なにを知りたかったのですか、あなたは」
「有野芽以が殺された理由だよ」
「殺された理由?」
太樹はうなずき、モニターの前に座る武部の背中に声をかけた。
「すいません、五時十分のデータをもう一度表示してもらえますか」
武部は太樹の指示どおり、午後五時十分の位置情報をモニターに映し出す。この時点では有野はまだ守衛室の前にいた。
「警察の話だと、この時間、翼は魔王対策チームの人と電話をしていたんだったよな。つまり、この時点で翼は生きていた。武部さん、二分後の情報をお願いします」
はい、と武部はおそるおそるといった風に返事をし、画面の表示を切り替える。時刻はおとといの午後五時十二分。有野の位置を示す赤い点の位置が守衛室の窓口の前を離れ、廊下のある地点に移動した。
「このあと有野は、この場所で六分間も立ち止まってる。なんでだと思う?」
「なんで、って……」
美緒は難しい顔をしたが、西本にはピンと来たようで「そうか」と両眉を跳ね上げた。
「この位置って、もしかして」
そうです、と答えてから、太樹は主に美緒に説明するように有野を示す赤い点を指さした。
「有野が立ち止まった位置を見てほしい。ここって、隣の本館で言うとちょうど205教室の対面だろ」
画面を指さす太樹の指がすぅっと動く。指先を目で追う美緒の表情が大きく変わった。
「まさか、有野さんは……?」
「そう。偶然だろうけど、見てしまったんだと思う。廊下のこの場所から、205教室で犯人が翼を刺し殺す瞬間を」
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