2.

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 廊下側の窓の一つが勢いよく開けられ、ダダダダと自動小銃の連射音が狭い教室を横断する。羽柴は廊下から離れるように中庭に面した窓に向かって駆け出すと、窓際の最前列に置かれた机を踏み台にして大きくジャンプし、肩から窓ガラスに突撃した。  窓の割れる派手な音を伴って、羽柴は教室の二階から校舎の外へと飛び出していく。彼のからだを受け止めてくれるものなどなく、落ちた先は中庭だ。  太樹は飛ぶように立ち上がる。割れた窓に駆け寄り、外の様子を確かめた。  予想はできていたが、羽柴は苦もなく着地に成功したようだ。右手に銃を握ったままゆっくりと腰を上げ、余裕を見せつけるようにあいた左手で眼鏡のブリッジを押し上げる。  だが、すぐに彼は顔色を変えた。彼の他にもう一つ、中庭で小さな人影が揺れた。 「お待ちしていました」  その声とともに、一発の銃声が鳴り響く。放たれた銃弾は羽柴の左頬をかすめ、噴き出した鮮やかな血が羽柴の白いワイシャツに赤い染みをつくった。 「美緒」  羽柴の表情が、驚きから怒りの色へと移り変わる。 「廊下にいるものだと思っていたが」 「あの人に言われませんでしたか、ご自分の目で確かめたほうがいいと」  彼女の勝負服であるという真っ赤なリボンをポニーテールのてっぺんで輝かせ、美緒は両手で銃をかまえたまま羽柴に言った。羽柴はつまらなそうに鼻を鳴らした。 「西本か。……いや、あいつにアサルトライフルは操れない」  思い直してつぶやいた羽柴が205教室を見上げてくる。中庭を見下ろす太樹の隣に、廊下で自動小銃をぶっ放した男が静かに立った。 「一発でも当てておいたほうがよかったでしょうかねぇ」  いつもの好々爺然とした笑みを湛え、その人は窓から羽柴を見下ろした。右肩には自動小銃、服装はやはりいつもどおり、守衛用の紺色の制服。 「いや、これでOKですよ、武部さん」  答えた太樹は右手をすぅっと横に伸ばして持ち上げた。 「ハンデなしの戦いを望んでましたからね、あの子は」  太樹の右手に淡い光が宿る。次の瞬間、にらみ合う美緒と羽柴それぞれの背後に巨大な土の壁が出現した。  ゴゴゴゴとすさまじい音を立ててせり上がった分厚い壁を、羽柴がちらりと振り返る。壁は中庭の出入り口をふさぎ、美緒と羽柴は四方を校舎と土の壁に囲まれた。  右手から光が消えると同時に、太樹のからだがふらついた。隣にいた武部がとっさに手を貸してくれたが、立っていられず、教室の壁を背に床へ力なくへたり込む。 「大丈夫ですか」  武部の呼びかけにうなずいてこたえるけれど、いつもより大きな魔力を発動させたせいか、眩暈がひどくて目が開けられない。  しばらく肩で呼吸し続け、ようやく細く目を開けられるまで回復したとき、中庭から乾いた発砲音が聞こえてきた。  始まったようだ。『勇者の剣』の争奪戦が。 「……あとはまかせた」  大きく息をつき、太樹は美緒の命運を祈るように教室の天井を仰いだ。
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