3.

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 終わった。時間にして数十分という戦いは、まるで永遠であるかのように長く感じた。  太樹のからだがぐらりと傾ぐ。武部が受け止めてくれはしたが、今にも意識が飛びそうだった。  閉じかけた瞳で、中庭の美緒を見やる。いつの間にか、彼女の左手には大振りの剣が握られていた。  平たい刃の幅は広く、赤い装飾の施された()と束はアニメの主人公が持つにふさわしいきらめきに満ちたデザインだ。小柄な美緒が振るうにはやや大きすぎる気がしたが、彼女の戦闘服である赤いリボンと色合いがマッチし、まるではじめから彼女のために用意された武器のようにも見えてくる。  太樹の視線に気づき、美緒は太樹たちのいる本館の二階を静かに見上げた。くるりと丸い瞳から、大粒の涙があふれ出す。  よくがんばったな。  そう声をかけてやるつもりで、太樹は美緒に精いっぱいの笑みを贈り、大きく一つうなずいた。美緒はいよいよかわいらしい顔をくしゃくしゃにし、声を上げて泣き始めた。  こらえ続けてきた悲しみが涙の川へと変わっていく。大切な人を唐突に失い、信じていた者まで手にかけて、それでも彼女は自らの足で立ち続けている。翼に代わって勇者となった自分への戒めのように。本当なら、立ち上がることさえままならないほどの心の傷を負っているはずなのに。  たいしたものだ。彼女ほど強い女性は見たことがない。抱きしめて、頭を撫でてやりたい気持ちは十分すぎるほどあるのに、情けないかな、からだがまるで動かない。  あの子になら、殺されてもいい。  改めてそう思いながら、太樹は武部の腕の中で静かに目を閉じた。  まぶたの裏で、翼が微笑みかけてくれる夢を見た。
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