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「……ん? あ、おい! なにしやがんだ!?」
なんと、腰に挿していたナイフを引き抜くと、五芒星を構成する縄の一本を切りやがったのだ!
慌てて声をあげるもその端から、形を損なった魔法円はラアアエエ魔術の効力を失う。
「キィィィーッ…!」
その隙を人魚も見逃さず、再び金切り声を響かせたかと思いきや、さっさと入江から出て行ってしまう。
「クソっ! こうなりゃ奥の手だ……」
逃げゆく人魚に、俺は投網を放り出して腰へ手をやると、下げていた燧石式マスケット短銃を今度は手に取る。魔物に効く銀の弾丸が仕込んである俺の虎の子だ。
せっかくの好機、こうなりゃ生捕りを諦めても逃す手はねえ……。
「キィィィィィーッ…!」
「こいつを喰らいやがれっ!」
もう一度、高く飛び跳ねた瞬間、俺は狙いを定めて短銃の引鉄をひく。
……だが、パーン…! と渇いた銃声を夜の海に響かせたものの、銀の弾は見事に獲物を外した。
「チッ…! おい! なに考えてやがんだ!? まだ人魚の歌声に惑わされてんのか!?」
俺は舌打ちをすると、いまだ海に浸かったままのエーリクに苛立たしげな声をあげる。
「いや違う! ……ああいや、そうなのかもしれない……あんたも見ただろ? あんな美しい生き物は他にいない……彼女は神の創られし最高傑作。人がどうこうしていいような存在じゃないんだ……」
だが、一度きっぱりと否定した後、すぐに頷いてみせたりして、すっかりその美しさに魅了されちまっているみてえだ。
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