Ⅱ 人魚の歌声には魔除けの魔導書を

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「……あっ!?」  すると、やや沖合へといった所に、すっぽんぽんの若い乙女が半身を海面上に出して浮かんでいる。  赤味を帯びた金の髪におそろしく蒼白い肌をしているが、涼やかな眼をしたけっこうな美人さんだ。 「…ララーララ〜ララーララ〜…」 「お、おい、あれってほんとに人魚じゃねえか!?」  俺はいつになく興奮気味に、やはりそちらを窺っているエーリクへと声をかける。 「……なんて美しい声なんだ……ああ、今、そっちへ行くから待っててくれ……」  だが、どうにもエーリクの様子がおかしい……俺の声も聞こえていねえらしく、何やらブツブツ呟きながら海の方へ歩いていっている。 「おい、どうしたんだよ? まさか、人魚の歌に惑わされちまったんじゃねえだろうな?」 「……美しい歌だ……それに、君もなんて美しいんだ……」  なおもエーリクは歩みを止めることなく、俺が訝しがってる内にもどんどん海の中へ入って行っちまう。 「おい! 止まれ! しっかりしろエーリク! ……クソ! 完全にイっちまってやがる……」  俺も慌てて海へ飛び込むと、辛うじてまだ下半身しか浸っていない浅瀬でエーリクにしがみついて止めた。 「離してくれ……彼女のもとへ行かせてくれ……」 「…ララーララ〜ララーララ〜…」  それでも突き進もうとするエーリクを冷たい瞳で真っ直ぐに見つめながら、乙女はなおも歌を唄い続けている。 「ヤベえな……なんとか正気に戻さねえと……」  しかし、なんでこいつだけ惑わされて俺は無事なんだ? ……そうか。もしかしてシグザンド写本(・・・・・・・)の……。  その不可解な差について疑問を抱く俺だったが、少し考えるとすぐにその答えに思い至る。
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