Ⅲ 人魚の美貌には相応の礼節を

3/5
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/11ページ
「やったぞ! 人魚は捕らえた! 苦し紛れに喰われねえよう早く上がってこい!」  今度こそロープを引っ張りながら、そんなエーリクに俺は嬉々としてそう呼びかける。 「キィィィーッ…!」  人魚は相変わらず奇声を発し、身悶えて入江の中をぐるぐる回っている……。 「さあ、最後の仕上げといこうか。あとはこいつで生捕りだ」  俺は人魚の状態を確認すると、傍に用意しておいた投網(とあみ)を手にとる。 「おい! いつまでも水浴びしてねえで、早く上がって来ててめえも手伝え!」 「あ、ああ。わかったよ……」  そして、いまだこの状況についていけてないエーリクの野郎を俺は急かす。  ……が、その時。 「キィィィィィィーッ…!」  一際大きな鳴き声をあげたかと思うと、派手に水飛沫を散らしながら、不意に人魚が海面高く飛び跳ねた。 「……!」  思わぬその光景に、一瞬、俺もエーリクもハッと息を飲んで固まってしまう……なぜならば、それはどうにも美しすぎたからだ。  蒼白い月明かりを浴びて、銀色に輝く水飛沫と尾鰭を覆い尽くす鱗……それに、たなびく金色の長い髪と女性らしく引き締まったエロチシズムを感じるプロポーション……。  それはまるで、この世のものとは思えないような妖艶で蠱惑的な光景だった。 「……ハッ! そ、そうだ。早く投網を……」  次の瞬間、ドボン…という水の音で俺達は我に返る。  気を取り直し、再び投網の準備に取りかかろうとする俺であるが、対してエーリクはなぜか予想外の行動に出る。
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!