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もしそれだけならば、臭いで熊の接近がわかっただけでは、なんて思ったかもしれない。だが、リドルの力はそれだけではなかったのだ。
彼はそのあとも、何度か不思議な力を見せたのだった。
王様のローブに噛みついて馬車に乗るのを阻止しようとするから気になって馬車を点検したところ、車輪の一つが大きく破損しているのがわかったり(そのまま乗っていたら事故が起きていたかもしれない)。
ダンスホールに飛び込んでいって突然一人の貴族に組みついたと思ったら、その人物が王都で最近起きた連続殺人事件の犯人だったり(しかも服の下にナイフを隠し持っていて、誰でもいいから刺すつもりだった)。
あとは、王子が学校に行くのを阻止しようと着替えをめちゃくちゃにしたり、わざと変なところでトイレをするのでおかしいと思って彼の望むまま城にいたら――学校の給食で食中毒が起きて、同じクラスの生徒たちが多数病院に担ぎ込まれた、なんてこともあった。
僕達は確信する。リドルには、予知能力のようなものがあるのだと。それを使って、僕達家族を守ってくれているのだと。
「リドル、お前は凄い犬だ!本当に、世界でたった一匹の、凄い犬なんだな。本当に英雄みたいだぞ!」
「わっふー!」
クォールが彼の頭をわしゃわしゃと撫でて褒めると、リドルも理解しているようにシッポをぶんぶんと振って喜んだのだった。
予知能力を持つ、天才犬。その噂は、たちまち近隣諸国にも知れ渡ることになる。王子は幸せだった。自分の愛犬が、皆に認められるヒーローとなったことが嬉しくてたまらなかったのだ。
だがその一方で。凶作が続き、近隣諸国が戦争を始めて貿易が中止されたりなどして、国の財政は苦しくなっていったのである。
そしてリドルが三歳、王子が九歳になったある日。ついに事件が起きたのだ。
「リドルを、買い取りたいだと……!?」
「左様でございます、王様」
王様のところに、北の国の使者がやってきたのである。北の国は、他の国に侵略戦争を行っていた。未来を見通せる犬の力があれば、北の国はけして負けることなどない。そう思って、リドルを高値で買い取ると言い出したのである。
「やだよ、お父様!絶対嫌、リドルは大事な家族なんだよ!?その家族を、戦争をしている国に売るつもり!?」
当然、王子は納得できるはずがない。リドルを売り飛ばすだけで論外なのに、相手はあの北の国だ。九歳にもなれば、王子にも諸外国の情勢はおおよそわかってくるというもの。北の国が西の国に対してどれほど酷い仕打ちをしているか。北の国の兵士を捨て駒にしているか、戦争に反対する人達を処刑していっているか。それを知っていたら、より承服できるはずがない。
そんな国にリドルを送ったら、一体どうなってしまうのか。リドル自身も、そして戦争も。
「……すまん、クォール」
王様は項垂れて、王子に言ったのだった。
「我が国の財政は想像以上に厳しいのだ。これ税金を重くするわけにもいかぬ。ああリドルを、命を大切にしろと。そう教えたのは私であったというのにな……」
「嘘だよ、お父様!お願いやめて、やめて!リドル、リドルうううううううううううう!!」
「わんっ!わんわんわんわんっ!」
泣き叫ぶ王子と愛犬は、強引に引き離された。リドルはケージに入れられ、馬車で運ばれて連れ去られてしまったのである。
もう二度と会えない。王子は悲しくて悲しくて、毎日泣き暮らすことになったのだった。
――リドル……ああ、リドル、リドル、リドル!
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