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(ラジオから曲が流れてくる)
あっ………この曲………懐かしい………
久しぶりに聞いたなぁ……
俺の車の中で、君と一緒に聞いたこの曲……
ねぇ、君は今、元気でやってるのかな?
俺はおかげさまで、自分のやりたい事を出来てるよ
でも、俺が生きる世界はプロの世界。
いつ仕事がなくなるか分からない世界だから、安定した収入は必要
だから、今でもギターの講師をしている……
幸い、俺は教える事は好きみたいだし……
生徒さんの頑張りを見てると、俺も頑張ろう!って思えるんだ……
君が初めて俺のレッスンに来た日を今でも鮮明に覚えてる
君が最初に弾きたい!って言った曲も覚えてる……
俺の生きる世界は厳しい世界
自分を売り込むバイタリティが無いとやって行けない世界………
まわりの同業者は気が強いヤツが多いし、
なんて言うのかな………
嘘や見栄や欲にまみれた奴ばっかりなんだ……
その場のノリで口約束しても、実現した事なんてほとんど無いし………
バカ正直にしていたら、自分が痛い目をみる……
そんな世界だから、俺も自分を守る為の仮面をつけて生きているんだ
本当は、ただ好きな音楽を、大好きなギターを弾いていたいのに、余計な事でそれを邪魔される……
ふとした瞬間、俺は何してんだろ!?って思う事も沢山ある世界なんだ……
だからこそ、君が俺のレッスンに初めて来て、好きなバンドや弾きたい曲の話をしている君を見て、すごく純粋で可愛いな!って思ったんだ……
君と一緒にいると、俺はなんだか気持ちが安らいで、初心に戻れるっていうか………
俺がギターを始めた頃の気持ちを呼び起こさせてくれたんだよね
君と仲良くなるきっかけは、俺がたまたま誘った送別会だったね
送別会って言っても……
俺と君とレッスンを辞める送別会の主役の3人だけだったけど……
君は、俺とその子が話してるのを、クスクス笑いながら見てたっけ………!?
あの送別会で君と色々話して、俺はなんだか君の事をもっと知りたくなったんだ……
それからだったよね……?
君と2人でご飯行ったり、夜中まで電話したり……
俺のサポートギターの演奏を聞きに来て、
そのまま打ち上げに連れて行ったり………
でも、俺たちは付き合ってた訳じゃない
と言うか………俺は君の気持ちに薄々気づきながらも、君がくれる安らぎに甘えてしまってた……
俺はズルい男だったんだ………
ある日君に呼び出された時、もしかして……って思ったよ。
俺の予想は当たった!
君からの告白だった
やっぱり……か……………
俺も最初はすごく気になってた
君と一緒にいる時はとても居心地がよくて、自分の中に隠してる純粋な部分が無意識に出てしまうんだ
君の純粋で可愛い仕草や表情が見たくて、君から目が離せなくなってた
でも一人になると現実世界に引き戻される…
好きな事で生きていく為に、俺はまた仮面をつけて頑張らないといけないんだ
君と出会う時期が違っていたら、また違う答えを出せたのかもしれない……
君との歳の差が違っていたら、違う関係性になってたのかもしれない……
けどそれは叶わない現実……
だから俺は君への気持ちにブレーキをかけた
でも俺はズルい奴で君にこの気持ちをちゃんと伝えられずにいた
結局、君からの告白で俺の気持ちを打ち明け、君を傷つける事になってしまった
本当にごめん………
あれから君と過ごした時間の何十倍もの月日が過ぎた
俺達は付き合ってたわけじゃない……
デートは沢山したけど、
キスだって、手だって繋いでない……
けど、ふとした瞬間、君の事を思い出すんだ
なんでだろうね………
あぁ、そうか……
俺の中に存在する純粋無垢な自分をさらけ出せたのは、後にも先にも君しか居ないからか………
ねぇ、
君は今何をしてる?
あの時言っていた夢は叶ったのかな?
-END-
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