第二輪 黒髪の男

50/50
152人が本棚に入れています
本棚に追加
/94ページ
水瓶の中には、水がたっぷりと溜まっていた。 その水面には、後頭部の髪を鷲づかみにされ、恐怖で顔が引きつるせつなが映っていた。 これからなにをされるのか、嫌でも想像がつく。 「それでは、あとは頼んだぞ」 「ああ」 無精髭の男にせつなを任せ、小屋から出ていこうとする見張り役の男たち。 絶望する水瓶に映る自分の顔を睨みつけるせつな。 …どうしてこんなことに。 せっかくあの黒髪男――天珠のところから逃げ出せたというのに。 事態はますます悪い方向へと向かうばかり。 そこでせつなは、水瓶の中を見てふとあることに気づいた。 乱れた寝間着の襟元から見える首筋――。 そこには、あるはずのものがなかった。 それは、沈丁花の形をしたアザ。 のぞき込むようにして凝視するが、やはりアザは見えなかった。 せつなは、あのときの天珠の言葉を思い出す。
/94ページ

最初のコメントを投稿しよう!