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水瓶の中には、水がたっぷりと溜まっていた。
その水面には、後頭部の髪を鷲づかみにされ、恐怖で顔が引きつるせつなが映っていた。
これからなにをされるのか、嫌でも想像がつく。
「それでは、あとは頼んだぞ」
「ああ」
無精髭の男にせつなを任せ、小屋から出ていこうとする見張り役の男たち。
絶望する水瓶に映る自分の顔を睨みつけるせつな。
…どうしてこんなことに。
せっかくあの黒髪男――天珠のところから逃げ出せたというのに。
事態はますます悪い方向へと向かうばかり。
そこでせつなは、水瓶の中を見てふとあることに気づいた。
乱れた寝間着の襟元から見える首筋――。
そこには、あるはずのものがなかった。
それは、沈丁花の形をしたアザ。
のぞき込むようにして凝視するが、やはりアザは見えなかった。
せつなは、あのときの天珠の言葉を思い出す。
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